
すりつぶしたドジョウで作るチュオタン · 写真: chomjong / CC BY 2.0 (Wikimedia Commons)
南原チュオタン:広寒楼のそばのドジョウ通りと、干し菜とエゴマで煮込むとろりとした一杯
『春香伝』の舞台・南原(ナムウォン)に行くと、広寒楼の周りにチュオタン(ドジョウ汁)の店が並んでいます。ドジョウを細かくすりつぶし、干し菜とエゴマを入れて煮る南原式チュオタンの特徴、文献に見るチュオタンの歴史、山椒粉の入れ方までまとめました。
チュオタンとはどんな料理か
チュオタン(鰍魚湯)は、ドジョウを入れてピリ辛に煮込んだスープです。ドジョウをじっくり煮てこしたスープに、白菜の葉、緑豆もやし、ワラビ、ねぎなどの野菜を入れ、テンジャンとコチュジャンで味付けして煮ます。ドジョウは田んぼや沼のような泥のある場所にすむ魚で、稲刈りが終わった後に田んぼで捕まえて体力を補った料理だとよく言われます。 今のチュオタンは大きく二つに分かれます。ドジョウを丸ごと入れて煮るソウル式と、ドジョウを細かくすりつぶして煮る全羅道式・慶尚道式です。魚の形がそのまま見えるのが苦手な人なら、すりつぶして煮るタイプのほうがずっと食べやすいでしょう。全羅北道の南原は、このすりつぶすタイプのチュオタンで全国に名を知られた町です。
文献に見るドジョウとチュオタン
ドジョウを食べていた記録はかなり古くからあります。1123年に高麗を訪れた北宋の使臣・徐兢が著した『高麗図経』には、ドジョウ、アワビ、貝、エビなどは身分の別なくよく食べるという一節があります。ただし、これはドジョウを食べていたという記録にすぎず、チュオタンという料理が登場したわけではありません。朝鮮後期の李圭景による『五洲衍文長箋散稿』には、ドジョウ豆腐湯やドジョウのゆで方が記されています。 丸ごと煮る調理法が確認できる最も古い文献は1924年の『朝鮮無双新式料理製法』で、1939年の趙慈鎬『朝鮮料理法』にはドジョウの骨を取って煮込む方法が紹介されています。ドジョウの形への抵抗感を減らすために形をなくす方向で考案されたこの方法が、今では最も一般的な調理法になりました。また1970年代半ば以降にドジョウの養殖法が農家に普及したことで、今のようにドジョウで作るチュオタンが一般化しました。
南原式チュオタン:干し菜とエゴマ
南原チュオタンが有名になった理由としては、智異山の麓から流れ下る蟾津江の支流や蓼川でドジョウがたくさん獲れたこと、雲峰などの高冷地で採れる里芋の茎や干し菜が豊富だったことが挙げられます。農民たちがこのドジョウに干し菜などを入れて煮て食べたのが「南原チュオタン」という名前の始まりだという説明もあります。 南原式チュオタンの特徴は、干し菜(シレギ)とエゴマの粉をたっぷり入れてとろりと煮込んだスープです。細かくすりつぶしたドジョウの身がスープに溶け込んで濃厚で香ばしく、やわらかな干し菜の歯ざわりも楽しめます。ドジョウの生臭さはテンジャンとエゴマが抑えてくれるので、魚料理が得意でない人でも意外と食べやすいことが多いです。よく見かけるすりつぶしたチュオタンの姿は南原式に近い、と言う人もいます。
広寒楼のそばのドジョウ通り
南原チュオタンを食べるなら、広寒楼苑の周辺へ行きましょう。広寒楼の周りにチュオタンの店がたくさん集まっているため、南原市はこの一帯をドジョウ通りとして整備しました。2011年の報道によると、南原市は南原産ドジョウを60%以上使う店を「南原産チュオタン認証モデル店」に指定したこともあります。1959年から同じ場所でチュオタンを作ってきたと紹介される店もあるほど、老舗が多いのも特徴です。 南原では在来種のドジョウ(ミックリ)の養殖に成功して地元農家に技術を広めるなど、チュオタンの材料を守る取り組みも続いており、2024年には南原チュオタンの製品がアメリカ、カナダ、オーストラリアへ輸出されるというニュースも伝えられました。広寒楼苑は『春香伝』で李夢龍と成春香が初めて出会う場所として描かれる庭園なので、庭園を散策してチュオタンで食事をするのが南原旅行の定番コースです。
食べ方と注文のコツ
チュオタンが来たら、テーブルに置かれた山椒粉(チョピ粉)、エゴマの粉、おろしニンニク、刻んだニラや唐辛子などを好みで入れて食べます。山椒粉は舌が少ししびれる独特の香りがあり、生臭さを消してスープの味を引き締めてくれますが、初めてなら少しだけ入れてから量を増やすのがおすすめ。ご飯は別に出てくることが多いので、まずスープを味わってから入れて食べましょう。 何人かで行くなら、チュオタンと一緒に、ドジョウのスフェ(ゆでドジョウ)などのサイドメニューがあるか見てみてください。南原には智異山の麓の小川で獲れたドジョウでスフェを出してきた店もあります。丸ごと煮たチュオタンが食べたいなら、メニューに「トンチュオタン」があるか確認しましょう。昼時は広寒楼苑の観光客で混むので少し早めに行くのがよく、持ち帰り販売をしている店も多いので、お土産に買って帰るのもおすすめです。