歴史
あん餅雑煮の中のあん餅 · 写真: Xanthippespert / CC BY-SA 4.0 (Wikimedia Commons)

あん餅雑煮の中のあん餅 · 写真: Xanthippespert / CC BY-SA 4.0 (Wikimedia Commons)

日本高松

あん餅雑煮:白味噌にあんこ入りの餅を入れる香川の正月料理

甘いあんこ入りの餅を塩気のある白味噌の汁に入れると聞くと、最初は首をかしげたくなります。香川東部の正月料理・あん餅雑煮が生まれた背景にある「讃岐三白」と砂糖の話、具材に込めた願い、県民の間でも分かれる好みをまとめました。

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あんこ入り餅の白味噌雑煮

雑煮は日本で正月に食べる餅入りの汁物で、地域によって汁や餅の形が大きく違います。香川県、特に東部の平野部の雑煮はその中でも独特です。甘みのある白味噌仕立ての汁に、あんこを入れた丸餅「あん餅」を入れるからで、「あん餅雑煮」と呼ばれます。 椀に盛った後は、香りづけにあぶって粉にしたアオサ(青のり)と花かつおをのせます。ひと口かむと、塩気のあるまろやかな白味噌の汁の中で餅がのび、甘いあんこがとろりと出てきて、甘さと塩気が一つになります。正月三が日に食べるハレの料理として、香川東部の平野部を中心に受け継がれてきました。

砂糖が貴重だった時代の願い

あん餅雑煮を食べるようになったのは、江戸時代末期から明治初期にかけてとされています。江戸時代中期以降、讃岐国東部を治めた高松藩は温暖で雨の少ない気候を生かして製塩やサトウキビ、綿花の栽培を奨励し、こうして生まれた塩、砂糖、木綿は「讃岐三白」と呼ばれる名産品になりました。 しかし砂糖の産地であっても、庶民にとって砂糖は高価な貴重品でした。そこで「せめて正月三が日くらいは砂糖の味を楽しみたい」という思いから、精製前の砂糖(白下糖)を餅の中に仕込んだのがあん餅雑煮の始まりと伝えられます。甘い雑煮には、貴重な砂糖を存分に味わいたいという昔の人々のささやかな願いが込められているのです。

輪切りの具に込めた願い

あん餅雑煮の具にも意味があります。丸餅と一緒に、大根、にんじん、里芋などの野菜を輪切りにして入れるのですが、「今年一年、何ごともまるく納まりますように」という願いを込めているといいます。里芋は小芋の皮をむいて丸のまま使うところもあります。 出汁はイリコと呼ばれる煮干しでとるのが基本ですが、沿岸部ではフグやハゼの干したものを使うこともあります。家によっては豆腐、油揚げ、ねぎ、かまぼこを入れたり、ゆでた春菊を添えたりします。餅のあんが出て形が崩れないよう、底の広い鍋を使うのがコツだそうです。同じあん餅雑煮でも、家ごとに少しずつ違う味があるのです。

県民の間でも分かれる好み

あん餅雑煮は香川を代表する郷土料理として紹介されますが、香川の人みんなが食べるわけではありません。食べる県民と食べない県民の比率は半々といわれるほど好みが分かれます。同じ県内でも、阿波(現在の徳島県)に近い山村では、あん餅雑煮ではなく赤味噌の汁かすまし汁に丸餅を入れた雑煮が食べられてきました。 日本の雑煮はおおむね関西が白味噌に丸餅、関東がすまし汁に角餅という違いがありますが、香川はそこにあんこという個性を加えたわけです。隣の愛媛県でも、香川に近い東部では白味噌にあん餅入りの雑煮が増えるといいます。海を隔てた熊本県の海岸部の一部にもあん餅を使う雑煮がありますが、こちらはすまし汁仕立ての具だくさんな別スタイルです。

旅行者が味わうには

あん餅雑煮は基本的に正月に家庭で食べる料理なので、うどんや骨付鳥のようにいつでも店で味わえるメニューではありません。味わいたいなら、年末年始のころに香川を訪ねるか、郷土料理を出す店や体験プログラムがあるか事前に調べるのが現実的です。時期や店によってはメニューに載せているところもあるかもしれないので、現地の観光案内所に聞いてみるのも手です。 初めてなら「甘い雑煮」というより「甘じょっぱい」デザートのような汁物と考えると抵抗が少なくなります。白味噌のまろやかな塩気とあんこの甘さ、アオサの香りが合わさる組み合わせは、韓国のトックッとも日本のほかの地域の雑煮とも違う香川ならではの味です。香川の人の間でも意見が分かれる料理だからこそ、実際に食べて自分の好みはどちらか確かめてみるのも旅の楽しみです。

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