歴史
ゆでて切った鯨肉のスユク · 写真: Andrew 鐘 / CC BY 2.0 (Wikimedia Commons)

ゆでて切った鯨肉のスユク · 写真: Andrew 鐘 / CC BY 2.0 (Wikimedia Commons)

韓国蔚山

長生浦の鯨肉:先史時代の岩刻画から捕鯨基地、そして今日の食卓まで

蔚山は鯨の街です。数千年前の捕鯨を刻んだ盤亀川の岩刻画、1986年の商業捕鯨禁止まで韓国捕鯨の中心だった長生浦、今は網に偶然かかった鯨だけが流通する理由、ウネ・オベギといった部位の名前までまとめました。

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数千年前に岩に刻まれた鯨

蔚山と鯨の縁は先史時代にさかのぼります。蔚州郡の大谷川の崖にある盤亀台岩刻画には、新石器時代から青銅器時代にかけて刻まれたとみられる絵が約300点残っており、形がわかる237点のうち鯨が62点で最も多くなっています。銛や舟、網などの道具も一緒に刻まれていて、捕鯨の様子を伝える貴重な資料とされています。 盤亀台岩刻画は1971年に発見されて国宝に指定され、2025年7月には近くの川前里銘文と岩刻画とともに「盤亀川の岩刻画」として世界遺産に登録されました。ただ、泗淵ダムのために毎年水に沈む期間があり、保存問題が長く議論されてきました。蔚山市は2026年4月から、岩刻画駐車場と大谷里・川前里を結ぶ無料循環バスを運行しています。

長生浦、韓国捕鯨の前進基地

蔚山湾の港・長生浦が捕鯨港になったのは近代のことです。1899年、ロシアの捕鯨会社が大韓帝国から許可を得て長生浦を鯨の解体作業場として使い始め、日露戦争後には捕鯨権が日本に移り、1915年ごろから長生浦が朝鮮半島の捕鯨の中心港になりました。当時獲れた鯨肉の多くは日本へ輸出されたといいます。 解放後は、日本の捕鯨船で働いていた韓国人200人余りが会社を設立して長生浦で操業を始め、こうして鯨肉を食べる文化が地域に根付きました。1970年代末の全盛期には捕鯨船20隻余りと1万人余りの人口が長生浦にありました。しかし乱獲で鯨が減り、1986年に国際捕鯨委員会(IWC)が商業捕鯨を禁止すると捕鯨は中断され、長生浦はしばらく衰退の道をたどりました。

今の食卓の鯨はどこから来るのか

商業捕鯨が禁止された今、韓国で鯨を意図的に獲ることは違法です。市場に出回る鯨肉は原則として、ほかの魚を獲るための網に偶然かかった「混獲」鯨のうち、海洋保護生物に指定されていない種です。鯨が網にかかると漁業者は海洋警察に届け出なければならず、海洋警察が銛の跡など違法捕獲の痕跡がないか調べて確認書を出してはじめて、競りと流通が可能になります。保護種や違法捕獲の痕跡がある鯨は廃棄の対象です。 海洋警察庁の資料を引用した報道によると、2019〜2024年にはミンククジラが毎年50〜70頭ほど混獲されました。そのため鯨肉は貴重で高価な食べ物になり、違法捕獲は3年以下の懲役または3000万ウォン以下の罰金で処罰されます。一方で環境団体は届け出られない鯨もいる可能性があるとして鯨肉の消費そのものを批判しており、食文化をめぐる議論が続いています。

ウネ、オベギ、パガジ:部位ごとに違う味

長生浦の人々は鯨肉を部位ごとに分けて、さまざまに食べてきました。柔らかく口の中でとろける腹肉は「ウネ」、こりこりと歯ごたえのある尾とひれは「オベギ」、赤身と脂がほどよく混ざった背肉は「パガジ」と呼びます。生肉をぶつ切りにした「マクチッケ」、生肉を細切りにしてタレで和えたユッケ、内臓料理もあります。部位ごとに12の味がすると言われるほどです。ウネのように日本語由来とみられる名前が残っているのも、日本統治時代の捕鯨の歴史の名残です。 最も一般的な食べ方は、いくつかの部位をゆでて薄切りにしたスユク(ゆで肉)で、塩やタレ、アミの塩辛などにつけて食べます。食用ではヒゲクジラ、なかでもミンククジラが最もおいしいとされます。味は牛肉と魚の中間のようだと表現されることが多いのですが、部位によってコクも食感も大きく違うため、初めてなら少しずつ盛り合わせたものを選ぶ人が多いです。

長生浦鯨文化特区を巡る

衰退していた長生浦は、鯨をテーマにした観光地として生まれ変わりました。2005年に蔚山で開かれた第57回国際捕鯨委員会年次会合を記念して長生浦鯨博物館が建てられ、捕鯨船の模型や鯨の骨など捕鯨の歴史を伝える資料を展示しています。現在は長生浦鯨文化特区と呼ばれるこの一帯に、鯨をテーマにしたさまざまな見学・体験施設が集まっています。 蔚山・南区は毎年長生浦一帯で蔚山鯨祭りを開いてきました。以前は主に5〜6月に開かれ、2026年は10月15〜18日に開催されました。鯨肉専門店も長生浦周辺に集まっており、2019年の記事時点で25軒ほどが営業していました。混獲量によって供給が一定せず値段も高めなので、メニューの値段と量を先に確認しましょう。鯨肉を食べなくても、博物館と海辺の散歩だけで十分立ち寄る価値のある場所です。

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