
ちゃんこ鍋 · 写真: George N / CC BY 2.0 (Wikimedia Commons)
ちゃんこ鍋:力士の鍋が両国名物になるまで
国技館のある東京・両国には、ちゃんこ鍋の店が集まっています。力士たちがなぜ一つの鍋を囲むようになったのか、鶏肉にこだわった験担ぎ、スープの種類、両国に店が増えたいきさつをまとめました。
「ちゃんこ」の語源
ちゃんこ鍋は、力士が所属する相撲部屋で食べられてきた鍋料理です。「ちゃんこ」の語源には諸説あります。よく知られているのは「父(ちゃん)」に由来する説で、若い力士が炊事をする先輩を「ちゃん」と呼び、そこに「こ」が付いたという説明です。明治の横綱・常陸山が古参の料理番を「ちゃんこう」と呼んでいたという話も伝わります。 ほかにも、江戸時代初期に中国から長崎に伝わった鍋の名前が変化したという説、中国語で鍋を指す言葉と結びついたという説があります。いずれも確定しておらず、資料によって説明が異なります。
なぜ一つの鍋を囲むようになったのか
力士の食事は、明治中期までは一人ずつ膳を用意する形だったといいます。ところが1909年ごろ、横綱・常陸山の人気で入門者が急増し、一人ひとりに膳を出すのが難しくなりました。そこで大きな鍋一つに具を入れ、全員で囲んで食べる形が考え出されたとされています。 鍋料理なら肉も魚も野菜も一度にたくさん食べられ、体を大きくしなければならない力士には栄養面でも合っていました。部屋では今も若い力士が当番でちゃんこを作り、兄弟子から順に食べる伝統が続いているといいます。ただ、2020〜2023年のコロナ禍には鍋を囲む形を控えることもありました。
鶏肉にこだわった理由:「手をつかない」
ちゃんこ鍋に伝統的に鶏肉を使ってきたのには、相撲らしい験担ぎがあります。鶏は人と同じく二本足で立つので、土俵で手をつかない、つまり負けないという意味が込められました。逆に四つ足の牛や豚は「手をつく」、すなわち負けを連想させるとして避けられていました。 牛肉や豚肉がちゃんこに使われるようになったのは1965年ごろからだといいます。今では魚介、豚肉、練り物、つみれなど具はとても多彩ですが、2021年ごろの資料でも、正月には験担ぎとして鶏のちゃんこを食べる文化が残っていると紹介されています。店で「ソップ炊き」というメニューを見かけたら、この伝統につながる鶏ガラスープのちゃんこと考えればいいでしょう。
スープで選ぶ:ソップ炊き・塩・味噌
ちゃんこの味は、大きくちり鍋風と寄せ鍋風の2種類に分けられるとされ、さらに水炊き、だしで炊くスープ炊き、塩炊き、味噌炊きなどに分類されることもあります。なかでも「ソップ炊き」は鶏ガラでとったスープを醤油で味付けしたちゃんこで、昭和の大横綱・大鵬は「基本はソップ炊き」と語ったといいます。「ソップ」はスープから来た言葉とされます。 初めてなら、鶏ガラのソップ炊きやすっきりした塩味でちゃんこの基本の味を確かめ、次に味噌味を試す、という選び方がおすすめです。店ごとに具もスープも大きく違い、「正解のちゃんこ」がないのも面白いところです。
両国でちゃんこを食べる
ちゃんこの店は、国技館のあるJR・都営大江戸線両国駅周辺に特に多く集まり、ちゃんこは両国を代表する名物料理になっています。墨田区観光協会によると、両国のちゃんこ店は1985年に国技館が蔵前(台東区)から両国へ移転してから急増したといいます。引退した力士が開いた店も多いとされます。 ちゃんこは2人前以上の鍋単位で注文する店が多いので、何人かで行くのがおすすめです。具を食べ終えたら残ったスープにうどんやご飯を入れて締めるのが、鍋料理のお楽しみ。東京で本場所が開かれる1月・5月・9月に合わせれば、相撲観戦とちゃんこを一緒に楽しめます。