
大涌谷の黒たまご · 写真: David Monniaux / CC BY-SA 3.0 (Wikimedia Commons)
大涌谷の黒たまご:食べると7年長生きする黒い卵のひみつ
箱根・大涌谷を訪れると、誰もが手にする黒い卵「黒たまご」。噴煙の上がる谷でどう作られるのか、なぜ殻が黒くなるのか、「7年長生き」の話のルーツ、火山活動にともなう注意点までまとめました。
「地獄谷」から「大涌谷」へ
黒たまごのふるさと・大涌谷は箱根火山の噴火でできた谷で、約3000年前の爆発で生まれたといわれます。今もあちこちで硫化水素を含む噴煙が上がり、地面から沸き立つ温泉や噴気孔の熱気を間近に見られる、箱根を代表する名所です。 江戸時代にはその風景から「地獄谷」「大地獄」と呼ばれていました。それが1873年(明治6年)9月5日、明治天皇・皇后の行幸啓をきっかけに今の「大涌谷」へと改称されました。恐ろしげな名前のかわりに、大きく湧き上がる谷という名前をもらったわけです。
80度の温泉池で60分、さらに100度の蒸気で15分
黒たまごは大涌谷の温泉池でゆでて作ります。観光案内によると、まず約80度の温泉池に生卵を入れ、60分ほどじっくりゆでます。すると気泡の多い卵の殻に温泉成分が付着して黒くなります。その後、蒸し釜で約100度の蒸気で15分ほど蒸して仕上げます。 できたての黒たまごは外は真っ黒ですが、殻をむくと中は普通のゆで卵のように白く、黄身までしっかり火が通っています。塩を少しつけて食べるのが基本。一部の観光メディアは普通のゆで卵よりうまみ成分が多いと紹介していますが、販売側の説明を伝えたものなので参考程度に受け止めればいいでしょう。
殻はなぜ黒くなるのか
長く広く知られてきた説明はこうです。温泉に含まれる鉄分が殻の小さな穴に付着し、そこに硫化水素が反応して黒い硫化鉄となり、殻が真っ黒になるというもの。今も多くの観光案内がこの説明を使っています。 ところが日本語版ウィキペディアは、2020年ごろに別の研究結果が出たとして、有機物由来のアミノ酸と糖が反応するメイラード反応に関係するという説明も載せています。このように仕組みについては資料によって説明が異なるので、確かなのは「温泉池でゆでると殻が黒くなる」ということくらいです。黒いのは殻だけで中身は普通なので、安心して食べられます。
「一個食べると7年長生き」のルーツ
黒たまごには「一個食べると寿命が7年延びる」という話がついて回ります。その背景には大涌谷の「延命地蔵尊」があります。1200年余り前、弘法大師が諸国遍歴の途中、地獄のような大涌谷の風景に心を痛め、一体の地蔵菩薩を刻んで人々の救済を祈ったという伝説が伝わっています。 そのお地蔵様の近くに黒たまごをゆでる温泉池があったことから、ご利益にあやかって寿命が延びるといわれるようになったそうです。「7年」という数字は、七福神のように縁起のよい数字として使われ、いつの間にか通説になったという説明もあります。日本語版ウィキペディアはこれを販売のための「ふれこみ」と表現しているので、楽しい言い伝えとして受け止めればいいでしょう。
火山地帯を訪れる前に知っておきたいこと
大涌谷は生きている火山地帯です。2015年5月6日には気象庁が箱根山の噴火警戒レベルを2(火口周辺規制)に引き上げ、箱根ロープウェイが全線運休。2016年7月になって規制が一部解除され、黒たまごの販売店も営業を再開しました。2019年5月にも再びレベル2となり、同年10月7日にレベル1へ引き下げられ、ロープウェイは10月26日に全線で再開しました。 ですから訪れる前には、気象庁の噴火警戒レベルと箱根ロープウェイの運行情報を必ず確認してください。火山ガスには硫化水素が含まれ、ぜんそくや心臓・呼吸器に持病のある人、小さな子ども、妊娠中の人はとくに注意するよう案内されています。黒たまごはふつう数個入りで売られていて、大涌谷の現地で買ってすぐ食べるのがいちばんおいしいです。