
鉄鍋のほうとう · 写真: Jungle (ja.wikipedia) / CC BY-SA 3.0 (Wikimedia Commons)
ほうとう:富士山麓・山梨の平打ち麺みそ煮込み、うどんと何が違う?
河口湖旅行でぜひ食べたいのが、ほうとう。鉄鍋で平たい麺とかぼちゃ、野菜を味噌仕立ての汁で煮込んだ山梨の郷土料理です。米が貴重だった土地の事情、うどんとの違い、名前をめぐる説、おいしい食べ方をまとめました。
米より小麦粉、富士山麓の事情
ほうとうは、小麦粉の生地を太く平たく切った麺を、かぼちゃなどの野菜とともに味噌仕立ての汁で煮込んだ山梨県の郷土料理です。2007年に農林水産省が選んだ「農山漁村の郷土料理百選」にも名を連ねています。 粉もの文化が発達した背景には土地の事情があります。河口湖のある富士山北麓は火山性の地形で水の便が悪く、稲作が難しかったため、麦作を土台にうどんやすいとんのような料理が根づきました。江戸時代に養蚕が盛んになって畑が桑畑に変わると、その合間に冬小麦を植えるようになり、粉ものはさらに増えたといいます。少ない小麦粉に野菜をたっぷり入れておなかを満たせるほうとうは、そんな暮らしにぴったりの料理でした。
うどんとの違い:塩を入れず、下茹でせずに煮込む
ほうとうはうどんに似て見えますが、作り方が違います。うどんの生地は塩を入れてよくこね、グルテンのコシを引き出しますが、ほうとうの生地はそうしたこね方をせず、寝かせることもほとんどありません。また生地に塩が入っていないので、麺を下茹でして塩分を抜く工程が要りません。 そのため生麺をそのまま汁に入れ、野菜と一緒に煮込みます。麺の表面の粉が汁に溶け出し、自然にとろみがつくのがほうとうの魅力です。麺はうどんより幅が広く少し薄めで、コシよりもやわらかくずっしりとした食感に近いもの。うどんのつもりで食べると違って感じるかもしれないので、「味噌煮込みに入った手打ちの平麺」をイメージするとわかりやすいでしょう。
かぼちゃと味噌、家ごとの味
ほうとうの汁は味噌が基本です。昔は家ごとに米麹と麦麹で「甲州味噌」を手作りしていたといい、今は店で買った米麹の味噌を使う家庭も多くあります。具はかぼちゃが代表的で、大根、にんじん、白菜、じゃがいも、里芋、きのこ、ねぎなど季節の野菜を入れます。 かぼちゃの扱いも地域によって違います。甲府盆地のあたりではかぼちゃが汁に溶けるほど長く煮込んで甘くこくのある汁にし、南の地域ではそこまで煮込まないといいます。山梨には「ほうとうを打てないと嫁に出せない」という言葉があったほど、家庭料理の代表でした。それだけ家ごと、店ごとに少しずつ味が違うのがほうとうです。
名前の由来:平安時代の辞書から武田信玄の伝説まで
「ほうとう」という名前には確かな由来がなく、いくつかの説があります。もっとも広く知られているのは中国から伝わった粉食「餺飥(はくたく)」に由来するという説で、平安時代の辞書『色葉字類抄』に「餺飥 ハクタク ハウタウ」という記録があります。穀物をついて粉にすることを意味する古語「はたく」から来たという説もあります。 旅先でよく耳にするのは、戦国武将・武田信玄が自分の「宝刀」で麺を切ったという話です。しかし日本語版ウィキペディアはこれを戦後の観光ブームのなかで生まれた話とし、言語学者は否定していると記しています。記録のうえでは、1815年の修験者・野田泉光院の日記に甲斐の「名物」としてほうとうが登場します。
おいしい食べ方とバリエーション
河口湖周辺にはほうとうを出す店が多く、湖や富士山の観光の合間の一食にぴったりです。ふつうは一人前ずつ小さな鉄鍋でぐつぐつ煮立った状態で出てくるので、取り皿に取って冷ましながら食べましょう。量がたっぷりあり、麺がどんどん汁を吸うので、出てきたらすぐ食べ始めるのがおすすめ。寒い季節の富士山旅行にはとくによく合います。 バリエーションもあります。夏にはほうとうの麺を冷やして温かいつけ汁で食べる「おざら」があり、1970年ごろ甲府の店が夏のメニューとして売り出したといいます。あずきをとろりと煮た汁にほうとうの麺を入れた甘い「小豆ぼうとう」もあります。2004年には北杜市須玉の「若神子のほうとう祭」が無形民俗文化財に指定されました。