
羊羹 · 写真: Tarobo (ja.wikipedia) / CC BY-SA 3.0 (Wikimedia Commons)
日光羊羹:江戸の参拝客のみやげと、冬に食べる水羊羹
東照宮への参拝でにぎわった江戸時代、日光の参道には甘味処が並び、なかでもいちばん人気だったのが羊羹でした。200年を超える羊羹店の歴史、夏ではなく冬に食べた日光の水羊羹、選び方のコツをまとめました。
羊羹とは:あん、寒天、砂糖の菓子
羊羹は、あんに寒天と砂糖を加えて煮詰め、型に流して固めた日本の和菓子です。大きく分けて二種類あり、じっくり練り上げて固く濃厚な「練羊羹」と、水分を多くしてやわらかくみずみずしい「水羊羹」です。 練羊羹は水分が少なく糖度が高いので日持ちがよく贈り物向き、水羊羹は舌の上でとろけるような食感が魅力ですが日持ちは短めです。日本の多くの地域で水羊羹は冷やして食べる夏の菓子とされますが、日光には少し違う伝統があります。日光は市内に羊羹店が10軒近く集まるほど、羊羹と縁の深い町です。
江戸の日光詣でと羊羹
日光羊羹の歴史は、東照宮への参拝とともに始まります。徳川家康をまつる日光東照宮には、江戸時代、大名や旗本はもちろん庶民も参拝に訪れました。雑誌『サライ』によると、化政文化が花開いた江戸後期には日光詣でをする庶民が増え、数年間のみで3万人に及んだといいます。 参道沿いには甘味処が並び、なかでも特に人気があったのが羊羹でした。日持ちがするので、遠い道のりを帰る参拝客が持ち帰るみやげに最適だったからです。歩いて何日もかかる旅では、保存のきく甘いものが何よりうれしいおみやげでした。
200年以上続く羊羹店
日光には今も長い歴史を持つ羊羹店が残っています。『サライ』によると、日光でいちばん古い羊羹店は1787年(天明7年)に創業し、江戸時代には東照宮や大名、朝廷への贈答品の注文を受け、「日光の練羊羹」の名を全国に知らしめたといいます。 その後も、1804年に酒饅頭の店として始まり明治時代に羊羹を作り始めた店、明治初期に開業した店、1895年に羊羹専門として創業した店などが続きました。それぞれの店が日光の水やあずき、製法に独自の個性を込めているので、同じ羊羹でも甘さや食感が少しずつ違います。時代の異なる店が同じ町に共存しているのが、日光羊羹の面白さです。
夏ではなく冬に食べる日光の水羊羹
日光羊羹でいちばん興味深いのは、水羊羹を食べる季節です。日本の多くの地域で水羊羹は冷やして食べる夏の菓子ですが、『サライ』によると、日光の水羊羹は炬燵に入って食べる冬の食べ物で、おせちにも入れられていたといいます。 理由は日光の寒い気候にあります。水羊羹は水分が多く傷みやすいのですが、冷蔵庫のない時代、日光の厳しい寒さが天然の冷蔵庫の役割を果たしました。そこで店々は底冷えのする気候を生かして水羊羹作りを冬に行い、雪の中で保存したとも伝えられます。今は一年中買えますが、冬の日光で暖かい部屋に座って水羊羹を食べるのは、ここならではの特別な体験です。
選び方と楽しみ方
日光の羊羹店は、東照宮へ続く大通りの周辺、とくに神橋に近い市街地に多く集まっています。おみやげなら日持ちのする練羊羹が安心で、現地で食べる、あるいは一両日中に食べるならみずみずしい水羊羹を選んでみてください。店ごとに味が少しずつ違うので、小さいサイズでいくつかの店のものを買って食べ比べるのも楽しい方法です。 羊羹は濃いめの緑茶と一緒に食べると、甘さがいっそうやわらかく感じられます。薄く切って少しずつ食べるのが一般的で、水羊羹はスプーンや楊枝ですくって食べることもあります。水羊羹は傷みやすいので、買うときに賞味期限と保存方法を必ず確認しましょう。参拝のあとに羊羹一切れとお茶一杯でひと休みすれば、江戸の参拝客の気分を少し味わえるかもしれません。