
順天湾のチャンットゥンオタン
順天湾のチャンットゥンオタン:干潟を跳ねる魚で作る南道のスタミナ鍋
順天湾の干潟には、胸びれで泥の上を這い回る魚チャンットゥンオ(ムツゴロウの仲間)がすみます。冬眠し養殖も難しいこの魚で作るチャンットゥンオタンの味と作り方、順天湾で食べるときに知っておきたいことをまとめました。
干潟の踊り子、チャンットゥンオ
チャンットゥンオはハゼ科の魚で、学名はBoleophthalmus pectinirostris(日本でいうムツゴロウ)、成魚の体長は18cm前後です。目が頭の上に飛び出し、潮が引いた干潟の上を胸びれで這うように跳ね回ることから「干潟の踊り子」と呼ばれます。丁若銓の『茲山魚譜』には、目が飛び出た魚という意味の「凸目魚」として記されているといいます。 干潮時は皮膚でも呼吸しながら泥の表面の珪藻を食べ、潮が満ちると掘っておいた巣穴に入ります。環境の変化に敏感で、きれいな干潟の指標種とされます。順天湾は葦原と広大な干潟で知られ、2021年にユネスコ世界自然遺産に登録された「韓国の干潟」にも宝城・順天の干潟が含まれています。この干潟のチャンットゥンオで作る鍋を、順天市は順天の郷土料理として紹介しています。
冬眠する魚、一匹ずつ釣る魚
チャンットゥンオは冬眠します。国内のある研究によると、水温が16℃以上に保たれる5月から11月まで干潟の上に出て活動し、それ以外の時期は巣穴の中で冬眠します。そのため活発に動く夏から秋にかけてが旬とされ、冬を前に身が肥える秋を一番おいしい時期とする人が多くいます。 養殖が難しく、今も干潟でとれる天然物だけが食べられています。賢くて網をよく避けるため、熟練した人が引っ掛け釣りで一匹ずつ釣るほどで、簡単にはとれないそうです。ドジョウより貴重な食材なので、この地方ではチャンットゥンオタンをドジョウ汁(チュオタン)より一段上に見ることもあります。
チャンットゥンオタンの作り方
チャンットゥンオタンは、見た目がチュオタン(ドジョウ汁)によく似ています。よくある作り方は、下処理した魚をじっくり煮て骨ごとすりつぶすか、ざるでこして身とスープをとり、そこにテンジャン(韓国味噌)を溶いて干し大根葉や白菜の外葉、大根、カボチャなどを入れてとろりと煮込むものです。エゴマを加えて香ばしさを足す店もあり、にんにくや唐辛子粉で味を調えます。 すりつぶさずに丸ごと入れて煮る店もあります。この場合、胆のうだけを取って内臓は残す店と、内臓をすべて取り除く店に分かれるといいます。味はチュオタンより薄味で、あっさりして香ばしいという評価が多く、すっきりしたスープなので二日酔い解消にも好まれます。鍋のほかに、チョンゴル(寄せ鍋)、焼き物、ざっくり切った刺身、揚げ物でも食べられます。
順天湾の名物になるまで
チャンットゥンオは昔から南海岸・西海岸の干潟の村で食べられてきた魚で、霊岩、順天、新安、海南など全羅南道の各地でチャンットゥンオタンが作られています。麦が実るころのチャンットゥンオは格別だという古い言い回しや、「100匹食べれば風邪をひかない」という言葉もあるほど、精のつく食べ物とされてきました。ただしこうした効能はあくまで俗説です。 順天でチャンットゥンオタンが旅行者の料理になったのは比較的最近のことです。ある報道によると、1980年代にメディアで紹介されてから順天湾の名物として知られるようになり、順天湾湿地が観光地として有名になるにつれ、葦原を見て回ったあとにチャンットゥンオタンを一杯食べるのが順天旅行の定番コースのようになりました。干潟を自分の目で見て、その干潟でとれた魚を味わえることが、この料理の一番の魅力です。
どこで、どう食べるか
チャンットゥンオタンは順天湾湿地周辺の食堂で簡単に見つかります。湿地の入口一帯には、チャンットゥンオタンと一緒にコマク(ハイガイ)定食など南道の干潟料理を出す店がいくつもあるので、グループなら別々のメニューを頼んで分け合うのもおすすめです。ふつうは1人前単位で注文し、ご飯と南道式のおかずが付いてきます。 初めてなら、まずスープだけを味わってから、薄いと感じたら卓上の薬味で少しずつ調えてみてください。生臭さがほとんどなく香ばしいので、チュオタン好きならすぐになじめます。チャンットゥンオが干潟を跳ね回る姿は、暖かい季節の潮が引いた昼間に順天湾の木道から見られるので、葦原の散策と食事を組み合わせて計画しましょう。冬はチャンットゥンオが巣穴で冬眠しているため、干潟の上ではまず見られません。