
串焼き(サンジョク)と並んだトンベギ · 写真: Eugene Kim / CC BY 2.0 (Wikimedia Commons)
永川のトンベギ:慶尚北道の祭祀膳にのぼる塩漬けサメ肉、市場での選び方と食べ方
海から離れた慶尚北道・永川には、サメ肉を切って塩に漬けた「トンベギ」の店が集まる市場の路地があります。祭祀膳に欠かせない料理になった理由、名前の由来とされる説、下ごしらえの工程、焼いたり蒸したりする食べ方をまとめました。
トンベギとは
トンベギは、サメ肉を大きく切り分け、粗塩で味をつけて熟成させた慶尚道の保存食です。大邱・慶尚北道では祭祀膳に欠かせない供え物であり、大切な客をもてなす料理とされてきました。他の地方の人には馴染みが薄いものの、慶尚北道出身の人なら、名節や法事の膳に並んだ四角いトンベギの串焼きを覚えていることが多いのです。 なかでも永川はトンベギの町として知られます。永川は浦項や慶州と違って海から離れた内陸の町ですが、メディアは永川のトンベギの味を高く評価しています。永川の商人たちは、その秘訣を「熟成」と「塩加減」だと話します。
内陸の祭祀膳にサメがのぼった理由
冷蔵輸送がなかった時代、内陸の人々が海の魚を食べるには、干すか塩漬けにするしかありませんでした。サメは体が大きく身が締まっているため、切り分けて塩漬けにし、長く保存するのに向いていました。ある新聞の食のコラムは、海から内陸の村まで魚が傷まないよう干したり塩漬けにしたりして運んだところ、その過程がかえって身を熟成させ、味と香りを良くしたと説明しています。 海から遠い土地では大きな海の魚は貴重な食べ物で、だからこそ先祖への供え物にもふさわしかったといいます。隣の安東の塩サバが塩のおかげで内陸の名物になったように、トンベギもまた「塩と時間」が生んだ慶尚北道内陸の料理といえます。
「トンバントンバン」と切るからトンベギ?
トンベギという名前の由来ははっきりせず、いくつかの説が伝わっています。最もよく紹介されるのは、サメ肉を「トンバントンバン」(ぶつ切りを意味する慶尚道の方言)と切っておいたことからトンベギになったという説です。四角く切りそろえた形を思い浮かべると、なるほどと思える話です。ほかに、アブラツノザメを指す「トンバルサンオ」と結びつける解釈もあります。資料によって説明が異なり、どちらが正しいとは言い切れません。 トンベギに使うサメの種類を知っておくと、市場巡りがもっと楽しくなります。学術資料や報道によると、主にシュモクザメとアオザメが使われ、商人たちは赤黒い色のシュモクザメを少し高価でおいしいものとしているそうです。
永川公設市場のトンベギ路地
永川でトンベギを見るなら永川公設市場へ。慶尚北道でも指折りの大きな市場で、常設市場のほか、日付の末尾が2と7の日には五日市も開かれます。市場の中にはトンベギの店が一か所に集まっていて「トンベギ路地」と呼ばれ、名節前には祭祀用のトンベギを求める客でにぎわいます。 2015年のある報道が伝えた下ごしらえはこうです。冷凍のサメを切り分け、長い包丁で皮を薄くはいだあと、厚さ1cmほどの長方形に切りそろえます。そこに粗塩を振って一日ほど熟成させ、水で洗って乾かし、串に刺すと祭祀用のトンベギ串焼きになります。店ごとに熟成方法が少しずつ違うそうです。同じ市場のコムタン(牛骨スープ)路地も知られています。
トンベギをおいしく食べるには
熟成したトンベギは焼くか蒸して食べます。フライパンや網でこんがり焼くと、外は香ばしく中はもっちりとした食感になり、地元メディアは酢コチュジャン(チョジャン)を添えて食べると紹介しています。すでに塩味がついていて塩辛いこともあるので、初めてなら小さく切って味見するのがおすすめです。 味の評価は分かれるほうです。熟成による独特の香りになじめない人もいれば、あっさりして弾力のある食感を好む人も多いのです。市場では祭祀膳用の串と、家で焼く用のぶつ切りの両方が売られているので、旅行者なら焼き用を少し買って試すのが気軽です。サメ肉ということに抵抗があれば、店の人に種類や産地を尋ねてみましょう。