
干した英陽の唐辛子 · 写真: Eugene Kim / CC BY 2.5 (Wikimedia Commons)
英陽の唐辛子:山あいの寒暖差が育てた粉唐辛子の町と、よみがえった在来種「スビチョ」
慶尚北道の英陽は、韓国で唐辛子といえばまず名前が挙がる町の一つです。大きな寒暖差と渓流の水がつくる栽培環境、地理的表示で守ってきた名前、消えかけていた在来種スビチョ・チルソンチョを復活させた話、よい粉唐辛子の選び方をまとめました。
唐辛子といえば英陽
慶尚北道の北東部にある英陽は、日月山をはじめとする高い山々に囲まれた山あいの郡です。人口は少ないものの、韓国で「唐辛子」といえばまず思い浮かぶ町の一つで、地元メディアは英陽を全国の唐辛子栽培を代表する名産地として紹介しています。夏の終わりには、村のあちこちで赤い唐辛子を干す風景が見られます。 キムチをはじめ、コチュジャン、チゲ、和え物まで、韓国料理の赤い色のほとんどは粉唐辛子から来ています。そのため韓国の家庭では毎年キムジャン(キムチ漬け)の季節を前に「今年の粉唐辛子はどこで買おうか」と悩みますが、そのとき昔から信頼されてきた名前が英陽の唐辛子でした。英陽郡は1984年に第1回「英陽唐辛子ミスコンテスト」を開き、これがのちの唐辛子祭りにつながったほど、唐辛子を町の顔にしてきました。
寒暖差と渓流の水がつくる味
英陽の唐辛子が有名な理由として、まず気候が挙げられます。英陽は標高の高い山間の高冷地で、夏は昼は暑く夜は涼しいため寒暖差が10℃以上になり、日照も豊富です。こうした環境で育った唐辛子は果皮が厚く色が美しく、辛みと甘みがよく調和していると評価されています。 水と土も一役買っています。日月山周辺の渓谷は真夏でも水がほとんど涸れず、唐辛子の品質が均一に保たれ、肥えた埴壌土も唐辛子栽培に適しているそうです。2018年の全国的な猛暑で唐辛子の生産量が大きく落ちたときも、英陽は点滴灌水設備のおかげで被害が少なかったと報じられました。英陽の唐辛子が「辛くないようで辛い」と言われるのも、糖度が高いためです。
よみがえった在来種、スビチョとチルソンチョ
1970年代まで、英陽ではカルチョ、ピョルチョ、ウモンチョ、ペンイチョといった多様な在来種の唐辛子が栽培されていましたが、改良種が広まるにつれてほとんどが姿を消しました。そこで英陽郡と英陽唐辛子試験場は1996年から地方の在来種を集めて復元する研究を始め、2004年にスビチョを「英高4号」の名で品種登録しました。 スビチョは少し辛いものの糖度が高く、果皮の食感がよい唐辛子と紹介されています。一緒に復元されたチルソンチョ(英高5号)は英陽の七星里にちなむ品種で、果皮が厚く、乾燥後の色がよく、真ん中がふっくらした形から「フナ唐辛子」とも呼ばれます。2007年にわずか2haだった在来種の栽培面積は、2018年ごろには唐辛子全体の10%にあたる200haあまりまで増えたそうです。
地理的表示と名前を守る取り組み
名の知れた特産物ほど、他の地域の唐辛子が「英陽唐辛子」に化けるのを防ぐことが大切です。地元メディアによると、英陽の粉唐辛子は2005年に農産物の地理的表示に登録され、2010年には地理的表示団体商標の登録も済ませました。英陽郡はこれをもとに、品質管理や病害虫の教育、在来品種の普及事業をあわせて進めています。 流通の仕組みも特徴的です。英陽郡は、2006年に設立された英陽唐辛子流通公社との契約栽培などを通じて地域の唐辛子生産量の半分以上を買い取り、農家の所得を安定させています。集めた唐辛子は公社が加工して販売します。英陽の唐辛子は全国の農産物品評会で何度も受賞し、2017年には粉唐辛子を初めてアメリカに輸出しました。
よい粉唐辛子の選び方と楽しみ方
粉唐辛子を選ぶときは、まず色と香りを見ます。天日や乾燥機でよく乾かした唐辛子で作った粉は鮮やかな赤色につやがあり、袋を開けると唐辛子特有の甘く辛い香りがします。キムチや和え物には粗挽き、コチュジャンや色をきれいに出したい料理には細挽きが合うので、用途に合わせて選びましょう。 英陽の唐辛子を現地の雰囲気とともに楽しむなら、秋の「英陽唐辛子H.O.Tフェスティバル」に注目を。英陽山菜祭りと並ぶ英陽を代表する農特産物の祭りで、これまでソウル市庁前広場などで開かれ、キムチ漬け体験や試食、直売市を行ってきました。開催場所と日程は年によって変わるので、英陽郡の案内を確認してください。英陽は国際ダークスカイ保護公園としても知られていて、星空観賞の旅と組み合わせるのもおすすめです。