
とんかつ(味噌カツ)
天ぷらととんかつ:ポルトガルとフランスから来た揚げ物が日本料理になった話
天ぷらは16世紀のポルトガル人宣教師が、とんかつは19世紀のフランスのコートレットが出発点です。外国料理を受け入れて全く別のものに作り変える日本の「洋食」文化と、カレーライス・オムライス・ナポリタンの誕生を併せて見ていきます。
天ぷら:16世紀のポルトガルから来た揚げ物
天ぷらはエビ・魚・野菜に小麦粉と卵、冷水で作った薄い衣を付けて油で揚げた料理です。語源はポルトガル語の「テンポラ(四旬節など肉食を禁じる期間)」または「テンペロ(調味)」とされ、1543年にポルトガル人が種子島に到着した後、長崎を通じて揚げ物の調理法が入ってきました。当時の日本には食用油が貴重で、揚げ物は贅沢な食べ物でした。 江戸時代にごま油と菜種油が大量生産されると、天ぷらは寿司・そばとともに江戸の三大屋台料理になりました。串に刺した揚げ物を立って食べるファストフードだったものが、明治時代以降はカウンターで職人が一品ずつ揚げてくれる高級料理へと発展しました。良い天ぷらの条件は薄くてサクサクした衣と、素材の水分が生きた中身です。塩や天つゆに大根おろしを溶いてつけて食べ、ご飯にのせれば天丼、そばやうどんにのせれば天ぷらそばになります。
とんかつ:フランスのコートレットの日本式変身
とんかつの出発点は1899年に東京・銀座の洋食店「煉瓦亭」が出した「ポークカツレツ」です。フランス料理のコートレットを真似て薄い肉にパン粉を付けフライパンで焼いていたものを、煉瓦亭は天ぷらのように油にたっぷり浸して揚げ、千切りキャベツを添えました。明治政府が1872年に肉食禁止を解除した後、西洋料理を日本化しようとする流れの中で生まれたのです。 今の厚い「とんかつ」は1929年に東京・上野の「ぽんち軒」が2.5〜3cm厚の肉を揚げてあらかじめ切り、ご飯・味噌汁・キャベツと一緒に箸で食べられるように出したのが始まりです。フォークとナイフなしで食べられるようになった瞬間、とんかつは洋食から日本料理になりました。上野をはじめ東京各地にとんかつの老舗があり、ロースとヒレから選び、ご飯とキャベツはおかわり自由の店が多いです。価格は定食で1,500〜3,000円です。
洋食:カレーライス・オムライス・ナポリタン
とんかつのように西洋から来たものの日本式に完全に変わった料理を「洋食」と呼びます。代表がカレーライスです。インドのカレーが英国海軍を経て明治時代の日本海軍の給食に入り、小麦粉のルーでとろみを付けてご飯にかける形になりました。1920年代に固形カレールーが発明され、ハウス・エスビーのような会社が家庭に広めたことで、今では日本人が週に一度以上食べる国民食です。とんかつをのせた「カツカレー」は洋食の決定版です。 オムライスはケチャップライスを薄い卵で包んだ料理で、1900年代初めの東京・煉瓦亭または大阪・北極星が元祖と言われ、ナポリタンは戦後に横浜のホテルニューグランドの料理人が米軍の食べていたケチャップスパゲッティから着想して作ったもので、イタリアにはない料理です。ハンバーグ、クリームコロッケ、エビフライも洋食です。西洋料理を箸とご飯に合わせて変えたこの文化は、ラーメン・とんかつとともに「外国のものを日本のものにする」日本の食文化の核心です。
カツの世界:味噌カツ・カツサンド・カツ丼・串カツ
とんかつは地域や形によって変奏が多いです。名古屋の味噌カツは赤味噌(八丁味噌)で作った濃くて甘いソースをとんかつにたっぷりかけるもので、名古屋めしの代表です。カツ丼はとんかつを玉ねぎと一緒に醤油ダレで煮て卵でとじ、ご飯にのせた丼で、「勝つ」と発音が同じなので試験や試合の前に食べる風習があります。 カツサンドはとんかつを食パンに挟んだサンドイッチで、東京・上野の「井泉」が1930年代に芸者たちが口紅を落とさずに食べられるよう作ったと伝えられ、最近は和牛を挟んだ高級カツサンドが流行しています。大阪・新世界の串カツは肉・野菜・魚介を串に刺して薄い衣を付けて揚げたもので、共用のソース容器に串を「二度漬けしないこと(二度漬け禁止)」が鉄則です。そのほかチキンカツ、メンチカツ、ハムカツも日本のどこでも出会えます。
とんかつ店での注文と食べ方
とんかつ専門店のメニューは大きく「ロースカツ定食」と「ヒレカツ定食」に分かれます。ロースは脂身が付いていて肉汁が豊富で香ばしく、ヒレは脂がほとんどなく柔らかくあっさりしています。初めてならロースをおすすめします。肉の重さ(120g・180g・250g)を選べる店もあり、定食にはご飯、味噌汁(豚汁の店が多い)、千切りキャベツ、漬物が付きます。 テーブルにはとろりとしたとんかつソースとからし、塩、そしてごまの入ったすり鉢があります。まずごまをすりこぎで擦って香りを出してからソースを注いで混ぜ、とんかつをつけて食べます。最初の一、二切れは塩につけて肉の味を見るのもよいでしょう。キャベツにはごまドレッシングやポン酢をかけ、ご飯とキャベツは「おかわりお願いします」と言えば無料で足してくれる店が多いです。とんかつは箸で一切れずつつまんで食べ、衣がサクサクのうちに早めに食べるのが美味しいです。