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鎮安のエジョチム

鎮安のエジョチム

韓国全羅北道 · 鎮安

鎮安のエジョチム:「悲しい豚」の名を持つ消えゆく郷土料理

馬耳山で知られる鎮安には、幼い子豚を丸ごと蒸し煮にするエジョチムがあります。貧しい農家が捨てられなかった子豚から始まり、裕福な商人のごちそうになるまでの話、名前に込められた意味、鎮安の村祭りとの縁、そして今では食べられる店がほとんど残っていない事情をまとめました。

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「子どもの豚」と「悲しい豚」

エジョはとても幼い子豚のことで、エジョチムはその子豚を丸ごと蒸し煮にした料理です。漢字では二通りに書きます。本来は「子ども」を意味する「兒」を使った「兒猪」ですが、全北日報のコラムによると、「子ども」という字が抵抗感を与えかねないため、「悲しい」を意味する「哀」を当てて「哀猪」とも書いたそうです。 「悲しい豚」という名には二つの解釈が伝わっています。母豚のお腹から生まれ出ることなく死んだ子豚の悲しみという説と、死んでしまった子豚まで食べざるを得なかった人々の悲しみという説です。いずれにしても、この料理が豊かさではなく、やりくりの中から生まれたことを名前がそのまま物語っています。英語圏の記事でも「sad pig(悲しい豚)」として紹介されています。

貧しい農家の料理から金持ちのごちそうへ

豚は一度にたくさんの子を産みます。中にはお腹の中で死んでしまう子や、乳を飲むうちに母豚の下敷きになって死ぬ子もいました。食べ物が乏しかった時代、農家はそんな子豚を捨てるに忍びず蒸し煮にした――それがエジョチムの始まりだと、全北日報のコラムは説明しています。 ところがこの料理は思わぬ道をたどります。同じコラムによると、朝鮮後期には商人たちが富を誇示しようとエジョチムを求め、子を宿した母豚をつぶしてお腹の子豚を料理することまで起きたといいます。『閨閤叢書』『増補山林経済』、日本統治期の『朝鮮無双新式料理製法』といった料理書にも子豚の蒸し煮が載っています。両班の家や宮中の宴にも上った特別な料理だったと伝えられています。

なぜ鎮安なのか:村の堂山祭の記憶

エジョチムは鎮安だけの料理ではありません。2002年の京郷新聞は、光州の食堂のエジョチムを「南道を代表する郷土料理」として紹介しています。それでも鎮安の人々は、鎮安こそエジョチムの本場だと考えています。 その根拠として挙げるのが村の祭祀です。全北日報のコラムによると、鎮安郡江亭里の堂山祭(村の守り神の祭り)の供物リストに「子豚」が記されていて、時期ははっきりしないものの、堂山祭に供えた子豚を村人が蒸し煮にして分け合って食べたという話が伝わっています。コラムはエジョチムを「全北十味」の中でも特に好奇心をそそる料理に挙げました。2016年のコリア・タイムズの記事は、ほかの郷土料理が全国に広まったのに対し、エジョチムは鎮安とその周辺にとどまったと説明しています。

今のエジョチムとその味

昔ながらのエジョチムは、もう見ることができません。2016年のコリア・タイムズの記事によると、今は法規や流通の事情から死んだ子豚は使えず、まだ飼料を食べていない乳飲み子豚を使います。そのため肉に脂っぽさが少ないそうです。 調理法も蒸し物というより澄んだスープに近いもの。同じ記事は、子豚を高麗人参や玉ねぎと一緒に石鍋に入れ、テーブルの火で煮て出すと説明し、身は白くほんのり桃色を帯び、皮はゼリーのようにぷるんとして、赤身はとても柔らかいと描写しています。古い料理書には、子豚のお腹にさまざまな薬味を詰めて釜で蒸す方法も記録されています。2002年には光州の食堂で、ナツメや銀杏、鹿角などの漢方素材と煮て、古漬けのえごまの葉で包んで食べ、残ったスープでお粥を作るスタイルが紹介されたこともあります。

食べ方と訪れる前に知っておきたいこと

エジョチムは、ふつう数人で一つの鍋を分け合って食べる料理です。2016年の記事によると、肉はアミの塩辛や酢コチュジャンにつけて食べ、淡白な味にピリッとした辛さを足すため、生にんにくと青唐辛子を添えます。 何より大切なのは「事前の確認」です。同じ記事はエジョチムを「消えゆく料理」と紹介し、当時の店主は、このエジョチムを出すのは全国でうちだけだと話し、鎮安のもう一軒は2年ほど前に閉店したと伝えていました。その後の様子を伝える最近の報道は見当たりません。材料の準備が難しく、メニューが変わったり予約が必要だったりすることもあるので、鎮安を訪れる前に営業状況を必ず確かめてください。子豚を丸ごと使う料理なので好みが分かれる点も、知っておくとよいでしょう。二つの峰が馬の耳に似た馬耳山と、石塔で有名な塔寺を巡ったあとに、鎮安の古い味を体験する旅がおすすめです。

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