
仙台名物のせり鍋 · 写真: Hanabishi / CC0 (Wikimedia Commons)
仙台せり鍋:400年のせり産地が生んだ「根っこまで食べる」冬の鍋
仙台の冬の居酒屋に欠かせないせり鍋は、葉や茎はもちろん白い根っこまで丸ごと入れる鍋です。地理的表示(GI)で守られる「仙台せり」の歴史と、2000年代に生まれた新名物が定着するまでをまとめました。
宮城は日本一のせり産地
せりは「春の七草」のひとつで、万葉集にも登場する日本古来の食材です。さわやかな香りから「日本のハーブ」とも呼ばれます。 宮城県はせりの出荷量が全国1位で、その約8割を「仙台せり」が占めています。仙台のすぐ南にある名取市(旧増田町)と仙台市太白区で、決められた基準に沿って育てられたせりで、2024年3月に農林水産省の地理的表示(GI)保護制度に登録されました。鮮やかな緑の葉茎と真っ白な根のコントラスト、シャキシャキした歯切れのよさが持ち味です。
400年続く名取のせり田
名取のせり栽培は歴史が長く、『名取市史』によると、安永年間(1770年代)に上余田村の肝煎が残した記録に、元和年間(1620年頃)に野生のせりの改良が始まったとあり、これが栽培の起源とされています。奥羽山脈から流れる名取川の豊かな伏流水が湧き出して湿地をつくった土地で、もともとせりがよく自生していました。 仙台藩主・伊達政宗が詠んだ「七種を一葉によせて摘む根芹」という句が伝わり、この地のせりが藩の特産品だったという記録も残っています。明治の記録には、せりを35駄、仙台へ運んだという記述もあります。極寒の頃に春を先取りする香りの野菜として、江戸時代から名が知られていたそうです。
脇役だった根っこが主役になるまで
仙台せりの地理的表示の明細書には、せり鍋の誕生の経緯が書かれています。これまで鍋物では、せりは「彩り」を添える脇役として葉茎だけが使われ、根は使われてきませんでした。ところが平成16年(2004年)頃、名取のせり農家が仙台の料理店と協力してせりが主役の鍋を考案し、葉茎だけでなく根っこまで丸ごと入れる新しい食べ方を提案しました。 せりそのもののおいしさを味わえると評判になり、多くの飲食店が「仙台名物」として出すようになりました。平成26年(2014年)頃からは仙台や全国規模の鍋グランプリで数々の賞を受けています。東日本大震災後の復興の過程で広まったという説明もあります。なお、根付きのまま出荷する現在の出荷規格は昭和41年(1966年)に定められたものです。
何を入れて、どう食べるか
せり鍋の基本は、せりと鶏肉、またはせりと鴨肉の組み合わせです。白ねぎ、ごぼう、豆腐、油揚げを加えることもあります。出汁は醤油・みりん・酒などで味付けした鶏ガラが多いものの、鰹や昆布の出汁を使う店もあり、店ごとに個性があります。 食べるときは、せりを部位ごとに味わうのがポイントです。シャキッとした茎、香りの強い葉、噛むほどに甘みと土の香りが広がる白い根が、それぞれ違うおいしさを見せてくれます。せりは長く煮ると香りや食感が弱まるため、さっと火を通してすぐ引き上げて食べることが多いです。店では入れる順番を教えてくれることもあるので、初めてなら聞いてみるとよいでしょう。
いつ、どこで味わうか
せりは一般に春の七草として知られますが、地元でせり鍋は主に冬の料理です。根まで食べられる「冬せり」が出回る時期が、ちょうど鍋の季節だからです。冬の仙台なら、仙台駅周辺や市内の繁華街の居酒屋・郷土料理店のメニューで簡単に見つかります。 せりは鍋以外にも宮城の食卓のあちこちに登場します。祝い事や正月の「仙台雑煮」、1月7日に無病息災を願う「七草がゆ」に欠かせず、おひたし、和え物、天ぷら、みそ汁、そばの薬味にも使われてきました。店先で根付きのせりの束を見かけたら、それが400年続く産地の冬の風景です。