
栃木の郷土料理しもつかれ · 写真: あきらぱいせん / CC BY-SA 4.0 (Wikimedia Commons)
しもつかれ:鮭の頭と節分の豆で作る栃木の初午料理
日光のある栃木県には、2月最初の午の日(初午)に鮭の頭、節分でまいた残りの大豆、粗くおろした大根を酒粕と煮込み、稲荷神社に供える郷土料理があります。好き嫌いが分かれることで知られるしもつかれの由来と風習、名前の謎をまとめました。
残り物で作る知恵の料理
しもつかれは、栃木県を中心に北関東に伝わる郷土料理です。材料が独特で、正月の新巻鮭の頭、節分でまいた残りの炒り大豆、にんじんなどの余り物を細かく刻み、大根を竹製の目の粗いおろし器「鬼おろし」で粗くおろして、酒粕と一緒に煮込みます。 冬の終わりに家に残った食材を捨てずにひとつの鍋にまとめる、暮らしの知恵が詰まった料理といえます。独特の味や香り、素朴な見た目から、好き嫌いがはっきり分かれる料理としても有名です。2007年には農林水産省の「農山漁村の郷土料理百選」で、ちたけそばとともに栃木県を代表する料理に選ばれました。
初午の日、稲荷神社に供える料理
しもつかれは本来、いつでも食べるおかずではなく、決まった日に作る行事食です。2月最初の午の日である「初午」に作り、赤飯とともに地域の稲荷神社に供えるのが習わしです。稲荷は五穀豊穣の神で、一年の農作業が始まる前に豊作を祈る意味が込められています。 この料理には面白い言い伝えもあります。三軒(七軒とも)のしもつかれを食べ歩くと中気にならない、多くの家のものを食べるほど無病息災になる、というものです。そのため一部の地域では、今も重箱に入れて近所同士で贈り合う風習が残っています。家ごとに少しずつ味が違うので、分け合って互いの腕前を比べる楽しみもあったそうです。
名前の謎、三つの説
「しもつかれ」という名前の由来ははっきりせず、大きく三つの説があります。一つ目は、味がしみ込んだ、または冷たいことを表す「しみつかる」に由来するという説。二つ目は、酢をかけて食べたことから、『宇治拾遺物語』などに見える「酢むつかり」が起源とする説。三つ目は、栃木の旧国名「下野」の家の習わしという意味の「下野家例」がなまったという説です。 地域によって呼び名もさまざまで、「しもつかり」「しみつかり」「しみつかれ」「すみつかれ」「すみつかり」などとも呼ばれます。名前がこれほど枝分かれしていること自体が、長い年月をかけて村ごとに受け継がれてきた料理である証拠ともいえます。
江戸時代は大豆と大根だけだった
今のしもつかれは鮭の頭や酒粕が入った濃厚な料理ですが、100〜200年ほど前までははるかにシンプルだったとされています。1830年刊行の喜多村信節『嬉遊笑覧』には、大豆と大根おろしを酢で締めた食べ物として紹介されています。 この記述をもとに再現した「江戸時代のしもつかれ」が、2021年3月23日、旧暦の初午にあたる日に鹿沼市の保育園で給食として出され、話題になりました。分布も意外に広く、栃木県全域のほか、茨城県西部、埼玉県東部、千葉県北部、福島県南部の奥会津などでも作られています。新潟県柏崎市には鮭のあらと鬼おろしの大根、酒粕、味噌で煮る似た料理がありますが、関連は定かではないそうです。
日光で出会うしもつかれ
しもつかれと日光は縁が深く、道の駅日光では2月上旬に「全日本しもつかれコンテスト」が開かれ、家庭ごとに違う味を競います。2026年には5年ぶりに開催されました。冬に日光を訪れるなら、この頃は地元でしもつかれに出会えるチャンスが多い季節です。 初めての人には見慣れない料理かもしれませんが、最近は鮭の頭を焼いて生臭さを抑えるなど下準備を丁寧にしたり、旅館で小鉢に上品に盛り付けたりと、若い世代や観光客にも食べやすくする工夫が見られます。酒粕のほのかな甘み、大豆の香ばしさ、大根の歯ざわりが合わさった味で、温かいご飯や酒の肴に添えて食べます。塩原温泉郷ではカレーを加えた「しもつカレー」がご当地グルメになるなど、新しいアレンジも生まれています。