
ワカサギの甘露煮 · 写真: Totti / CC BY-SA 4.0 (Wikimedia Commons)
芦ノ湖のワカサギの甘露煮:二日かけて煮る箱根の湖の保存食
箱根・芦ノ湖では100年以上にわたってワカサギが育てられてきました。1918年に湖へやって来た卵の話から、10月1日の解禁日の風景、番茶で一日、調味料でさらに一日煮る甘露煮の作り方と味わえる時期までまとめました。
標高724メートル、火山が生んだ湖
芦ノ湖は神奈川県の西端、箱根町にある湖です。標高724メートル、箱根火山の活動で生まれたカルデラ湖で、晴れた日には湖面に富士山が映る「逆さ富士」の景勝地として知られます。海賊船の遊覧船が行き交う観光地ですが、古くから漁業でも栄えてきました。 この湖を代表する魚がワカサギです。農林水産省の「うちの郷土料理」は、芦ノ湖で獲れたワカサギを素焼きしてからじっくり煮込み、水あめで照りを出した「ワカサギの甘露煮」を箱根町の郷土料理として紹介しています。甘辛くしっかり煮て水分を飛ばしているため日持ちし、保存食としても重宝されてきました。
1918年、霞ヶ浦から来たワカサギの卵
芦ノ湖のワカサギは、もともとこの湖にいた魚ではありません。農林水産省の資料によると、1918年(大正7年)に茨城県の霞ヶ浦からワカサギの種卵が移植されてワカサギ漁が始まり、以来100年以上にわたって増殖事業が続けられています。 芦ノ湖の澄んだ水で育ったワカサギはおいしさに定評があり、箱根の特産品として定着しました。今では箱根町の「町の魚」であり、神奈川の伝統と風土に培われた「かながわの名産100選」にも選ばれています。 湖を守る取り組みも続いています。毎年、禁漁期間に入るころには、芦ノ湖の環境保全のため大規模な湖底清掃が行われるそうです。
10月1日解禁、初物は箱根神社へ
芦ノ湖では毎年10月1日にワカサギの刺し網漁が解禁されます。この日は地元の漁師たちが一斉に船を出し、その日獲れた初物は箱根神社で祈祷された後、宮内庁に献上されるそうです。 ワカサギは冬の魚というイメージがありますが、芦ノ湖では8月頃から獲れ始め、11月頃に最盛期を迎えます。禁漁期間は12月中旬から2月です。秋の箱根旅行なら、獲れたてのワカサギ料理に出会えるチャンスが多いでしょう。 2月には箱根神社の節分祭に合わせて芦ノ湖周辺で「わかさぎ祭り」が開かれ、地元で獲れたワカサギ料理がふるまわれます。湖の上で釣り糸を垂れる小舟も、芦ノ湖のおなじみの風景です。
番茶で一日、調味料でもう一日:甘露煮の作り方
芦之湖漁業協同組合が農林水産省に提供したレシピを見ると、甘露煮にはまるまる二日かかります。まずよく洗ったワカサギを素焼きにして鍋の底に並べ、落とし蓋をして番茶を注ぎ、とろ火で約一昼夜煮ます。次に醤油・三温糖・酒・みりんを加えてさらに一日ゆっくり煮込み、最後に水あめを加えて照りを出します。 でき上がったらよく冷まし、形を崩さないように鍋から取り上げます。長く煮ることで小骨までやわらかくなり、頭から尾まで丸ごと食べられます。 ワカサギにはフライや南蛮漬けなどさまざまな調理法がありますが、なかでも甘露煮はこの地域で古くから親しまれてきた料理で、正月の定番の品として食卓に上ります。
箱根でワカサギを味わう
ワカサギの漁期中は、芦ノ湖周辺の旅館や飲食店で甘露煮をはじめ多彩なワカサギ料理が出されます。湖畔の元箱根や箱根町の一帯は遊覧船の乗り場や箱根神社に近く、湖の散策とあわせて立ち寄るのにぴったりです。 店では甘露煮のほか、揚げたてのワカサギの天ぷらにも出会えます。芦ノ湖で獲れる淡水魚の天ぷらをご飯にのせた丼を出す店もあり、ワカサギと一緒にマスやバスなど湖の魚がのることもあります。 甘露煮は日持ちするのでお土産にも向いています。甘辛い味がしっかりしているので、温かいご飯に一、二尾のせたり、緑茶や日本酒のお供にしたりしてみてください。箱根で温泉だけでは物足りないなら、湖の小さな魚が語る100年の物語も味わってみてはいかがでしょう。