
吉野本葛
吉野本葛:真冬の冷水で晒す奈良の葛と葛切り
透き通った葛切りや、ぷるんとした葛餅の原料は、葛の根から取ったでんぷんです。なかでも最高級とされる奈良・吉野の「吉野本葛」はなぜ貴重なのか。冬だけの「吉野晒し」の製法、食べ方、選び方をまとめました。
葛の根から取れる白い粉
葛は、マメ科のつる性の多年草です。秋の七草の一つで、昔から用途の多い植物でした。農林水産省の資料によると、根は葛根湯などの漢方薬に、葉は家畜の飼料に、つるは布の繊維に、花は二日酔いの薬に使われてきました。 食べ物として使われるのは、根から取ったでんぷんを精製した「葛粉」です。水と合わせて加熱しながら練ると、透明で弾力のあるゲル状になり、和菓子や料理に幅広く使われます。 農林水産省の資料では、葛粉を葛餅として食べるようになったのは江戸時代中期以降とされています。そして葛粉の代名詞となったのが、奈良県の吉野地方です。
なぜ吉野なのか:寒さと清らかな水、そして「国栖」
農林水産省の資料は、吉野地域が寒冷で良質な水源に恵まれ、葛の根の品質が高いと説明しています。吉野の葛粉が朝廷に献上されて評判を呼び、それがこの地に葛の食文化が根づくきっかけになったといいます。 名前にまつわる話もあります。吉野川上流にあった「国栖(くず)」という地域が葛粉の産地だったことから「くず」の名がついた、という説が伝わっています。真偽は断定しにくいものの、それだけ吉野と葛が長く結びついてきたことを物語っています。 吉野の名声は料理用語にも残っています。葛粉でとろみをつけた料理を「吉野仕立て」と呼ぶことがあるのは、吉野が葛の名産地だったからです。
吉野晒し:10日間冷水で晒し、1か月以上乾かす
吉野本葛が高価なのは、その製法にあります。葛の根は、でんぷん質が根に集まる冬が採集の適期とされます。 農林水産省の資料によると、まず葛の根を砕いて桶に入れ、水を加えてかき混ぜ沈殿させます。浮いたアクや不純物を取り除く作業を10日間ほど繰り返すと純白の「生葛」が残り、これを乾燥棚で1か月以上自然乾燥させます。全工程で延べ2〜3か月かかることもあります。 このように水に何度もさらす伝統製法は「吉野晒し」と呼ばれます。水温が低いほど葛が分離しやすいといわれ、厳しい寒さと良質な地下水のある吉野に向いた製法です。ただ、葛の根を掘る職人が減り、生産量は減少傾向にあります。
「本葛」と「葛」は違う:選び方
おみやげに葛粉や葛菓子を買うときに必ず見たいのが表示です。市販の「葛粉」には、さつまいもやじゃがいもなど別のでんぷんを混ぜたものもあるからです。 農林水産省の資料によると、葛でんぷん100%のものを「吉野本葛」、葛でんぷんが50%を超えるものを「吉野葛」と呼び分けます。また、葛の根から取った葛でんぷんだけを原料とする製品は「吉野本葛」として地域団体商標に登録されています。名前に「本」がつくかどうかが純度の目安というわけです。 本葛の菓子は透明感と弾力があり、口の中でなめらかにとけるといいます。値は張りますが、奈良に来たら一度は「本葛」と表示されたものを味わってみてください。
どう味わう?葛切り・葛餅・ごま豆腐・葛湯
葛粉を使った代表的な食べ物は次のとおりです。 葛切りは、葛の生地を固めて麺のように細く切ったもので、冷やして黒蜜につけて食べます。葛餅は、葛粉と水、砂糖を鍋で煮て、粘りと透明感が出たら冷まして固めたもので、きな粉や黒蜜を添えます。このほか葛まんじゅう、精進料理で知られるごま豆腐、体を温める飲み物の葛湯などがあります。 奈良市内や吉野かいわいには、葛切りや葛餅をその場で作って出す茶店があります。作りたての葛切りは時間がたつと食感が変わりやすいので、現地ですぐ食べるのがいちばん。おみやげには日持ちのする本葛の粉や葛湯を選びましょう。