
ぬか漬けにした丸い水なす · 写真: Saichi31 / CC0 (Wikimedia Commons)
泉州水なす:手で裂いて食べる大阪南部のみずみずしい浅漬け
絞ると水がしたたるほどみずみずしく、生で食べられるほどアクが少ないなす。関西空港の南、泉州地域の名物・水なすの歴史と旬、手で裂いて食べる理由をまとめました。
水がしたたるなす
水なすはナスの品種群の一つで、大阪府南部の泉州地域で採れるものを特に「泉州水なす」と呼びます。普通のなすより下ぶくれの電球形で、絞ると水がしたたるほど水分が多いことからこの名が付きました。 ナスは本来アクが強く生食に向かない野菜ですが、水なすはアクがほとんどなく、ほのかな甘みがあって生でも食べられます。農林水産省「うちの郷土料理」は大阪府の最初の項目に「泉州水なすの浅漬」を挙げ、皮が薄く柔らかい特徴から漬物で食べるのが一般的だと説明しています。
室町時代の書物から空港開港まで
水なすのルーツは、室町時代の書物『庭訓往来』に出てくる「澤茄子」とみる説があります。発祥地については現在の貝塚市澤とする説と、大阪府が紹介する泉佐野市上之郷とする説があり、資料によって異なります。本格的な栽培は江戸時代初期からと考えられています。 長いあいだ水なすはほぼ地元だけで食べられる野菜でした。農家が田んぼのあぜに植えておき、夏の農作業でのどが渇いたときにかじったという話も伝わります。皮が薄く輸送中に傷みやすいうえ、漬けると皮が褐色になり見た目がよくなかったためです。農林水産省は、1994年の関西国際空港開港後に大阪の特産として注目されるようになったと説明しています。ウィキペディアによると、現在流通しているものの多くは、戦後に開発された全体が紫色になる系統です。
旬と産地
泉州水なすは貝塚や泉佐野など、関西空港に近い大阪南部の泉州一帯で栽培されています。ウィキペディアは、水はけと保水性をあわせ持つ畑が栽培に向いていると説明しています。 農林水産省の資料によると、収穫はおおむね4月から11月で、いちばんおいしいのは夏。露地ものは6〜9月が最盛期です。ウィキペディアによると、実がとても繊細で、風で揺れた葉が触れるだけで傷が付くため、農家は実のまわりの葉を取り除き、風の強い日は防風ネットを張るなど一つ一つに手間をかけます。産地の外で高級野菜とされる理由でもあります。
包丁ではなく手で裂く理由
泉州では水なすをぬか床や漬け液に1日から数日ほど浅く漬けて食べます。 面白いのは食べ方です。農林水産省の資料は、食べる直前にへたを切り落として切れ目を入れ、手で縦に裂いて食べると味も食感もよくなると紹介しています。包丁で切った断面より裂いた面のほうがでこぼこして汁や調味料がよくなじみ、繊維に沿って割れるのでしゃきっとしつつみずみずしい食感が生きるからだと言われます。そのままでも、かつお節やごま、しょうゆを少し添えてもおいしいです。古漬けは塩抜きして小エビと甘辛く炊いた「じゃこごうこ」というおかずにもなり、ウィキペディアによると学校給食にも取り入れられています。
旅行者が味わうには
水なすの浅漬けは、夏ごろ大阪市内の居酒屋の「本日のおすすめ」によく登場します。メニューで「水なす」や「水茄子の浅漬け」を探してみてください。手で裂いた形のまま出してくれる店もあります。冷たいビールとの相性は抜群です。 お土産なら、関西空港や新大阪・なんばなど大きな駅の土産物売り場、百貨店の食品売り場で、漬け液ごと袋詰めされた商品が簡単に見つかります。要冷蔵で賞味期限が短めなので、帰国直前に買うか、パッケージの保存方法を必ず確認しましょう。泉州地域の農産物直売所では旬の時期に生の水なすも売られていて、サラダのように生で食べる体験もできます。