歴史
1 / 2
切り分けた松山のタルト · 写真: katorisi / CC BY-SA 3.0 (Wikimedia Commons)

切り分けた松山のタルト · 写真: katorisi / CC BY-SA 3.0 (Wikimedia Commons)

日本松山

松山の「タルト」:洋菓子のタルトではない柚子あんのロール、1647年長崎から始まった物語

松山で「タルト」と言えば、サクサクのパイではなく、ふんわりしたスポンジで柚子の香るあんを巻いたロール菓子。藩主が長崎で出会った南蛮菓子が、どうして松山の銘菓になったのかをまとめました。

5分で読める0

名前はタルト、形はロールケーキ

愛媛県松山で「タルト」と言うと、多くの旅行者が思い浮かべるフルーツタルトとはまったく違うお菓子が出てきます。カステラのようにふんわりしたスポンジ生地に、柚子の香りを加えたこしあんを塗って丸く巻いたロール状のお菓子です。切り口ではあんがひらがなの「の」の字のように渦を巻きます。 農林水産省の郷土料理資料では、タルトは「松山市を代表するお菓子」と紹介されています。今では愛媛各地の菓子店で作られて売られ、全国の百貨店や一部のサービスエリアでも見かけます。家で作るより買って食べるお菓子で、お茶請けにしたり贈り物にしたりするのが一般的です。

1647年、長崎へ向かった藩主

農林水産省の資料によると、タルトの起源は江戸時代初期にさかのぼります。1647年(正保4年)、ポルトガル船が長崎に来航したという知らせを受け、久松松平家の初代松山藩主・松平定行は海の警備のため長崎へ向かいました。 当時の日本はポルトガル船の来航を禁じていたため、この船の出現は大きな警戒の対象でした。ところが定行が長崎で出会ったのは、軍事の問題だけではありませんでした。彼はそこでカステラでジャムを巻いた南蛮菓子を口にし、気に入ったと伝えられています。南蛮菓子とはポルトガルなどヨーロッパから伝わったお菓子のことで、カステラも同じ系統です。

ジャムの代わりにあん、そして柚子

定行は松山に戻る際、このお菓子の製法を持ち帰ったといいます。このとき和風にアレンジされたのが今のタルトです。農林水産省の資料では、もとのジャムが柑橘系だったことから柚子を加えたと説明されています。ジャムの役はあんが担い、柚子の香りがその二つをつなげているわけです。 面白いのは、このお菓子が長い間外に知られなかったことです。製法は久松家の秘伝として受け継がれ、明治以降になってようやく松山の菓子職人に広まったそうです。名前の由来には、ケーキを意味するオランダ語「taart」またはポルトガル語「torta」から来たという説が紹介されています。いずれにしても、ヨーロッパの焼き菓子を指す言葉が、松山ではまったく別のお菓子の名前になったのです。

作り方

農林水産省の資料に載っている主な材料は卵、小麦粉、こしあんで、これに砂糖、柚子の皮、水が加わります。卵にふるった砂糖を入れ、約40度に温めながら泡立て、生地の筋がやっと消えるくらいなめらかにします。ふるった小麦粉をだまにならないように混ぜ、紙を敷いた型に流し、180度で7〜8分ほど、表面がきつね色になるまで焼きます。 あんは水を少し加えて温め、煮立ったら火を止めて、すりおろした柚子の皮を混ぜます。これを焼いたスポンジの上面に塗り広げ、切り口が「の」の字になるように巻きます。薄いスポンジにあんをたっぷり塗るのが特徴で、ひと切れ食べると生地よりあんの存在感のほうが大きく感じられます。季節によっては桜、甘夏、栗を入れたあんも登場します。

旅行者のタルトの楽しみ方

タルトは一年中買えるので、松山旅行のお土産としていちばん無難な選択肢の一つです。松山駅や道後温泉周辺、空港のお土産売り場で、いくつもの菓子店のタルトを見比べられます。一本まるごとのロールと、あらかじめ切って個包装したものがあり、配るお土産なら個包装が便利です。 食べるときは薄く切り、お茶と一緒に出すのが一般的です。柚子の香りを楽しむなら、冷蔵庫から出したてより少し常温に置いてから食べるのがおすすめ。同じ名前でも、店ごとにあんの甘さや柚子の香りの強さ、スポンジのしっとり感が違うので、二、三軒分を買って食べ比べるのも楽しみです。季節限定の味が出ていれば、その時期だけの選択肢としてねらってみてください。

#タルト#松山銘菓#柚子#南蛮菓子#愛媛
松山の「タルト」:洋菓子のタルトではない柚子あんのロール、1647年長崎から始まった物語 | TastyLog