
夕暮れの肱川に映る大洲城 · 写真: Mimumama / CC BY-SA 4.0 (Wikimedia Commons)
いもたき:河原で月を眺めながら里芋の鍋を囲む愛媛の秋の風物詩
晩夏から秋にかけて、愛媛の河原には里芋と鶏肉を煮た鍋を囲む人々が集まります。大洲発祥とされるいもたきの由来、鍋の中身、旅行者が参加するときのヒントをまとめました。
いもたきは料理であり行事
いもたきは、里芋を主役に鶏肉、生揚げ、しいたけなどを甘辛いしょうゆ味の汁で煮込む愛媛の鍋料理です。農林水産省の郷土料理資料に載っているレシピには、もちもちの白玉団子も入ります。 ただ、いもたきは単なる料理名にとどまりません。愛媛で「いもたき」と言えば、秋の河原に席を設けて鍋を囲み、月を眺めながら食べて飲む宴そのものを指すこともあります。農林水産省の資料では、この行事は県内全域、とくに南予地方を中心に十数か所で行われていると説明されています。松山を拠点に愛媛を旅するなら、秋にしか出会えないこの土地の風景を知っておくとよいでしょう。
大洲から始まった350年の物語
農林水産省の資料によると、いもたきの発祥は松山の南西にある大洲市とされています。加藤家が大洲藩を治めていた350年以上前にさかのぼるといわれ、正確な始まりの年は資料によって異なります。 始まりとして伝わるのが伝統行事「お籠り」です。人々が集まってともに夜を過ごすこの行事で鍋がふるまわれ、各自が地元名産の里芋を持ち寄ったのがいもたきの起こりだと説明されています。里芋は親芋から子芋、孫芋へと増えていくことから子孫繁栄の縁起物とされ、祝いの料理にも使われてきました。食べ物を持ち寄って一つの鍋に集める形は、今のいもたきの集まりにもその精神が残っています。
観光行事になった大洲の河原のいもたき
大洲のいもたきは1966年(昭和41年)に市の観光事業となりました。河原で月を眺めながら里芋を味わうこの催しは、全盛期には年間7万人以上が訪れたといいます。 大洲では晩夏から秋にかけて(おおむね8月末〜9月初めから10月中旬〜下旬まで)、肱川の河原でいもたきが開かれてきました。農林水産省の資料によると、大洲名物の鵜飼いと重なる約1か月は、川を見下ろす臥龍山荘のライトアップを眺めながら鍋を囲めます。大洲以外でも各地でいもたきが開かれ、今では愛媛の中秋の風物詩になっています。開催期間や場所、予約方法は年によって変わることがあるので、大洲市や観光協会の案内を先に確認しましょう。
鍋の中身と味
農林水産省の資料の4人分のレシピでは、鶏肉300g、里芋400g、生揚げ1枚、しいたけ4枚、白玉粉100gに、だし汁5カップを使います。味付けは砂糖、みりん、しょうゆ、酒で甘辛く。里芋は皮をむいて塩を入れた湯でゆで、鶏肉を油で炒めたら里芋と生揚げを加えて炒め、だし汁を入れて煮ます。里芋が煮えたら白玉団子を加えて味を調え、汁ごといただきます。 いちばん大切なのは、里芋を口の中でとろけるくらい柔らかく煮ることだそうです。ただし具材や味付けは地域や家庭によって違い、こんにゃくを入れるところもあれば、イイダコが入る地域もあると言われます。鍋を食べ終えた後、残った汁にうどんを入れて締めるのもよくある楽しみ方です。
旅行者のためのいもたきのヒント
いもたきをしっかり楽しむには時期が大切です。晩夏から秋、とくに9〜10月に愛媛を訪れるなら、大洲などの河原のいもたきの日程を前もって調べておきましょう。1杯から販売して少人数でも参加しやすくした年もありますが、運営方法や予約方法は年によって変わることがあるので、案内で確認しておくと安心です。 催しに行けなくても、いもたきを味わう機会はあります。秋になると愛媛の飲食店や宿の食事に季節料理として出ることもあり、家庭や学校給食でもよく作られる料理なので、地域のイベントでふるまわれることもあります。河原の夜は思ったより冷えることがあるので、上着を忘れずに。湯気の立つ鍋、川面に映る月、そして一つの鍋を分け合う人々の声こそが、いもたきの本当の味わいです。