
大阪・天王寺駅のきつねうどん · 写真: ノボホショコロトソ / CC BY 4.0 (Wikimedia Commons)
大阪のきつねうどん:油揚げ一枚が大阪の「ソウルうどん」になるまで、大阪で「たぬき」がそばを指すわけ
甘辛く炊いた大きな油揚げが澄んだつゆに浮かぶきつねうどんは、大阪の人が最も愛するうどんとされます。誕生の話と昆布だしの秘密、大阪・京都・東京で迷いやすい呼び名の違いをまとめました。
大阪の人が「もっとも愛するうどん」
きつねうどんは、昆布とかつお節でとった澄んだつゆにうどんを入れ、砂糖・醤油・みりんで甘辛く炊いた大きな油揚げをのせた料理です。農林水産省は大阪府の郷土料理として紹介し、大阪府民が「もっとも愛するうどん料理」であり、だし文化と粉食文化の両方を味わえる料理だと説明しています。 特別な日のごちそうではなく、季節を問わず家庭でも飲食店でも食べられる日常食であることも特徴です。駅の立ち食いうどんから町のうどん屋まで、大阪ではたいていメニューの最初のほうにその名があります。「きつね」の名の由来は後ほど紹介します。
明治26年の船場、客が油揚げをうどんにのせた
大阪とうどんの縁は古く、農林水産省の資料によると、豊臣秀吉が大阪城を築いた頃、現在の大阪市西区新町付近の「砂場」と呼ばれた場所にうどん店やそば店が並んだとされ、うどんが一般に広まったのは江戸中期ごろです。明治初頭には製麺所が増え、多くの店が麺を仕入れるようになりました。 きつねうどんは明治26年(1893年)、商都・船場のうどん店で、添え物として出していた油揚げを客が素うどんにのせて食べたのが始まりと伝えられています。ただ、江戸にも油揚げをあしらったそばがあったという記述(1806年刊の書物)があり、文献上は江戸のほうが古いとする説もあります。
なぜ「きつね」なのか
名前の由来としてよく知られるのは、油揚げがキツネの好物とされたという話です。日本ではキツネは稲荷神の使いとされ、油揚げで酢飯を包んだ寿司を「稲荷寿司」と呼ぶのも同じ理由だといわれます。 ほかに、炊いた油揚げの色がきつね色に似ているからという説、うずくまるキツネの形に似ているからという説もあります。大阪では親しみを込めて「けつね」と呼ぶこともあり、葛の葉伝説の信太の森にちなむ「しのだ」という別名もあります。メニューに「しのだ」とあれば油揚げを使った料理だと思えば大丈夫です。
つゆの秘密:昆布と薄口醤油
きつねうどんのもう一つの主役はつゆです。大阪観光局は大阪の味の基本を昆布とかつお節の合わせだしと説明しています。江戸時代、北前船が北海道の昆布を大阪へ運び、大阪は京都の利尻昆布とは異なる、濃厚なうま味の真昆布を選んだといいます。農林水産省は、北前船の航路によって昆布や小麦粉、塩が大阪に集まり、うどんづくりに使われたと記しています。 醤油は色の淡い薄口を使うのが関西流で、つゆは澄んだ黄金色になります。すっきりしたつゆと、甘辛く炊いた油揚げの対比が肝心。油揚げを少しつゆに浸してひと口、油揚げからしみ出た甘みが溶けたつゆを最後まで飲み干すのが大阪流です。
注文のコツ:大阪・京都・東京で呼び名が違う
関西を旅するときにいちばん迷うのが呼び名です。大阪を中心とする近畿では、油揚げをのせたうどんを「きつね」、同じ油揚げをのせたそばを「たぬき」と呼ぶのが一般的で、「きつねそば」「たぬきうどん」というメニューはふつうありません。東京でたぬきといえば揚げ玉をのせた麺なので、まったく別の料理が出てくることになります。 京都はまた違います。味付けした油揚げをのせたものは「甘ぎつね」、味付けしていない油揚げを刻んでのせたものは「刻みきつね」と呼び、刻んだ油揚げに葛餡をかけたうどんを「たぬき」といいます。大阪で大きな油揚げを食べたいなら、そのまま「きつね」を頼めばOKです。