歴史
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クワイを添えた牛肉のフォー(フォー・ボー・チン) · 写真: Binh Giang / Public domain (Wikimedia Commons)

クワイを添えた牛肉のフォー(フォー・ボー・チン) · 写真: Binh Giang / Public domain (Wikimedia Commons)

ベトナム

フォーの系譜:ナムディンで生まれ、ハノイで育ち、サイゴンで変わった

フォー(Phở)は100年ほど前にベトナム北部で生まれた、意外に新しい料理です。起源をめぐる諸説、ハノイと南部へ広がった道のり、澄んだ北部式とハーブたっぷりの南部式の違い、注文で役立つ言葉までをまとめました。

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20世紀初め、ナムディンの織物市場のそばで

ベトナムを代表する麺料理フォー(Phở)は、思ったより新しい料理です。英語版ウィキペディアがまとめた研究によれば、今のようなフォーは1900年から1907年ごろ、ハノイの南東にあるナムディン(Nam Định)地方で形になったとされます。当時のナムディンには大きな織物市場があり、ヴァンクー(Vân Cù)村などがフォーの故郷とされています(旧ナムディン省は2025年の行政統合で現在はニンビン省の一部)。 初期のフォーは店ではなく、天秤棒の両端に鍋や器を下げた移動式の台所「ガインフォー(gánh phở)」で、夜明けと夕暮れに売られていました。記録は少なく、1907年の短編小説にフォーという言葉が登場し、作家グエン・コン・ホアンが1913年にフォー売りを見たと回想しているくらいです。フォーをスープ料理と定義した辞書は1931年になって初めて現れました。

名前の由来は?三つの説

フォーの起源については資料によって説明が異なります。一つ目はフランス影響説。フランスの植民地支配(1887〜1954年)の下で牛肉が普及し、フォーという名はフランスの牛肉の煮込み料理ポトフ(pot-au-feu)から来たという主張ですが、料理の中身が違いすぎるとして反論する研究者も多くいます。 二つ目は中国影響説。ハノイの中国系の人々が牛骨を買って作っていた牛肉麺「ングーニュックファン(牛肉粉)」の「粉」がフォーになったという見方で、雲南や広東出身の労働者が初期の需要を支えたとされます。三つ目は、水牛の肉を炒め煮にした北部の古い料理サオチャウ(xáo trâu)が、安い牛肉を使うようになってフォーに変わったという説です。どれか一つに決着はついておらず、複数の影響が混ざったと考えるのが一般的です。

ハノイの麺になるまで、そして南へ

フォーはほどなくハノイに入りました。1918年ごろにはハノイに常設のフォー店がいくつか現れ、1925年ごろにはヴァンクー村出身の人がハノイで初めて「ナムディン式」の店を開いたと伝わります。1930年ごろには牛肉をさっと火を通して出すフォー・タイ(phở tái)が、1939年には鶏肉のフォー・ガー(phở gà)が登場しました。 大きな転機は1954年の南北分断です。100万人を超える人々が北から南へ移り、フォーもサイゴン(今のホーチミン市)に根を下ろしました。戦後の配給時代には、肉なしで調味料のスープだけを注いだフォーが「パイロットのいないフォー」と冗談めかして呼ばれるほど苦しい時期もありました。ベトナム戦争後には国外へ渡った人々がフォーを世界へ運び、1980年にカリフォルニアのリトルサイゴンで最初のフォー店ができてから数百軒に増えました。

澄んだ北部式、にぎやかな南部式

同じフォーでも北部と南部ではかなり違います。ハノイ式は牛骨をじっくり煮出した澄んだ深いスープに、ゆがいた長ネギを大きく入れ、添え物も刻みネギとパクチー、酢漬けニンニク、チリソース、クワイ程度と控えめ。スープそのものを味わう一杯といえます。 南部式はスープがやや甘く濁っていて、もやし、タイバジル、ノコギリコリアンダー、ライム、生唐辛子が皿いっぱいに添えられ、卓上には海鮮醤(ホイシンソース)とチリソースが置かれます。ウィキペディアはこうした添え物の多くを南部で加わったものと説明しています。発祥の地ナムディン式は麺が幅広く、魚醤を多く使うのが特徴とされます。日本のベトナム料理店でよく見るもやしとソースの組み合わせは、実は南部式に近いのです。

国家無形文化遺産になったフォー、注文で使う言葉

2024年8月、ベトナム文化スポーツ観光省は「ハノイのフォー」と「ナムディンのフォー」の調理の知識を国家無形文化遺産のリストに加えました。 注文では肉の種類と火の通し方を選ぶのが基本です。フォー・ボー(phở bò)は牛肉、フォー・ガー(phở gà)は鶏肉。牛肉のフォーでタイ(tái)は生肉を熱いスープで火を通すもの、チン(chín)は茹でてから切った肉で、両方を合わせた「タイ・チン」もよく頼まれます。スープなしの食べ方もあり、幅広の米麺で牛肉とハーブを巻いたフォー・クオン(phở cuốn)はハノイで人気の比較的新しいメニュー。麺を牛肉や野菜と炒めたフォー・サオ(phở xào)もあります。フォーはもともと朝食によく食べられますが、今は一日中出す店がほとんどです。

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