
フィンで淹れるコーヒーとアイスコーヒー(ダナン) · 写真: Dragfyre / CC BY-SA 3.0 (Wikimedia Commons)
ベトナムコーヒー完全ガイド:フィンと練乳、エッグコーヒー、ココナッツコーヒーまで
ベトナムはブラジルに次ぐ世界第2位のコーヒー生産国。濃く苦いロブスタを小さな金属フィルターで淹れ、練乳と氷を加える独特のコーヒー文化があります。伝来の歴史からフィンの使い方、エッグコーヒーの誕生、注文のコツまでまとめました。
宣教師が持ち込んだコーヒーが、世界第2位の生産国になるまで
ベトナムにコーヒーが初めて入ったのは1857年、フランスの宣教師がコーヒーの木を持ち込んだのが始まりとされます。1888年には北部のニンビン省と中部のクアンビン省に最初の農園ができ、1920年代にフランスが中部高原(タイグエン)、とくにダクラク省一帯に産地を開いたことで、ブオンマトート高原がコーヒー産業の中心になりました。 戦争や集団農業の時代に停滞したコーヒー産業は、1986年のドイモイで民間経営が再び認められると急成長しました。今のベトナムはブラジルに次ぐ世界第2位のコーヒー生産国で、生産量の約97%がロブスタ種です。ロブスタはアラビカより苦くカフェインが多めで、この濃く苦い味こそがベトナムコーヒーの個性をつくりました。
フィン(phin):一杯ずつゆっくり落ちる金属フィルター
ベトナムコーヒーといえば、カップの上にのせた小さな金属フィルター「フィン(phin)」です。底に小さな穴が開いたカップ型のフィルターに粗挽きのコーヒーを入れ、押さえ板をのせて熱湯を注ぎ、ふたをすると、コーヒーが一滴ずつ下のカップに落ちていきます。最初に少しだけ湯を注いで粉を蒸らし、それから残りを注ぐのが一般的です。 現地のカフェでは、フィンをカップにのせたまま、抽出中の状態で運んでくることがよくあります。落ち切るまで数分待ち、ふたを裏返して受け皿にしてフィンを置いたら、底に入った練乳とよく混ぜて飲みます。急いで飲むものではなく、待つ時間まで楽しむ飲み物だというのがベトナムのコーヒー文化の核心。
なぜ練乳?カフェスアダーの誕生
ベトナム式ミルクコーヒーが牛乳ではなく甘い練乳を使うのには理由があります。フランス植民地時代のベトナムでは新鮮な牛乳が手に入りにくく、暑さですぐ傷んだため、日持ちのする輸入の加糖練乳が使われました。深煎りロブスタの苦みは練乳の甘さとよく合い、さらに暑い気候から氷が加わって、今のアイス練乳コーヒーになりました。 これがカフェスアダー(cà phê sữa đá)で、カフェはコーヒー、スアは牛乳、ダーは氷の意味です。練乳なしのブラックはカフェデン(cà phê đen)、氷を入れればカフェデンダー。逆に練乳と牛乳をたっぷり入れてコーヒーはほんの少しのバクシウ(bạc xỉu)もあり、1950年代にサイゴンの華人街チョロンで生まれたといわれます。
牛乳の代わりに卵:ハノイのエッグコーヒー
エッグコーヒー(cà phê trứng)は、卵黄に砂糖と練乳を加えてクリーム状にふくらむまで泡立て、濃いコーヒーの上にのせた飲み物です。ベトナム観光総局のサイトなどによると、1946年(1940年代とだけ記す資料もある)、戦時下で牛乳が貴重だった時期に、ハノイのあるホテルのバーテンダーが牛乳の代わりに泡立てた卵黄を使ったのが始まり。彼はのちに自分のカフェを開き、その家族が今もハノイで同じ製法のエッグコーヒーを受け継いでいるといわれます。卵黄に何を混ぜたかは資料によって少しずつ異なります。 カップは冷めないよう、お湯を張った器に入れて出されることが多くあります。まずスプーンで上の卵クリームを味わい、それから下のコーヒーと混ぜて飲みましょう。ハノイ発祥ですが今はホーチミン市などでも気軽に飲め、冷たいアイスエッグコーヒーもあります。
ココナッツコーヒー、塩コーヒー、そして注文のコツ
最近は新しいベトナム式コーヒーも増えています。ココナッツミルクと練乳、氷をシャーベット状にした上に濃いコーヒーを注ぐココナッツコーヒー(cà phê dừa)はハノイで生まれ、あるカフェチェーンを通じて広く知られるようになりました。軽く塩を加えたクリームをのせる塩コーヒー(cà phê muối)は2010年にフエで生まれたもので、塩が練乳の甘さを引き立てると説明されます。 注文は「カフェ・スア・ダー(練乳アイスコーヒー)」「カフェ・デン・ダー(ブラックアイスコーヒー)」と言えばたいてい通じます。ベトナムコーヒーはかなり甘めに出てくるので、甘さを控えたいなら「イット・ドゥオン(ít đường、砂糖少なめ)」と添えてみましょう。ロブスタはカフェインが多いので、コーヒーに弱い人は午後遅くは控えめに。