
バックハー市場のタンコー鍋 · 写真: Maria Hsu / CC BY 2.0 (Wikimedia Commons)
タンコー(Thắng cố):モン族の市場で煮える大鍋、サパ高原の馬肉煮込み
ラオカイ高原の市場では、大人が何人も囲めるほどの大鍋で馬肉と内臓が煮えています。モン族の伝統料理タンコーの由来、名前の意味、市の日の食べ方をまとめました。
モン族の鍋から始まった料理
タンコー(Thắng cố)は、ベトナム北部の山岳地帯に暮らすモン族(H'Mông)の伝統料理です。ベトナム語版ウィキペディアによると、中国・雲南に起源があり、モン族とともに南下し、のちにキン族・ザオ族・タイー族にも広まりました。 いつ始まったかについて正確な記録はありません。ラオカイ省バックハー(Bắc Hà)のモン族の料理人は「馬肉のタンコーは、モン族・タイー族・ヌン族がバックハーに住みついた200年ほど前に生まれた」と語っており、地元メディアもおおむね「約200年前」という説明を踏襲しています。 サパ(Sa Pa)を含むラオカイ高原で特に有名なのはバックハーとムオンクオン(Mường Khương)のタンコーですが、サパの高原市場や食堂でも同じ大鍋に出会えます。
名前をめぐる三つの説
「タンコー」という名前の意味は、資料によって説明が異なります。ベトナム語版ウィキペディアや地元メディアが紹介する説は大きく三つです。 一つ目は、漢語とモン語が混ざった言葉で「骨のスープ(canh xương)」を意味するという説。二つ目は中国語の「タンホアック(thang hoắc)」から来たという説。三つ目はモン語の「トアンコー(thoảng cố)」がなまったもので、「鍋いっぱいの水(nồi nước)」を意味するという説です。 どの説にも共通するのは「大鍋で長く煮込んだスープ料理」というイメージです。実際タンコーは、一つの部位を選んで焼く料理ではなく、肉・骨・血・内臓を一つの鍋に入れて何時間も煮込む料理で、地元メディアは「ごちゃ混ぜ(hỗn độn)」の料理とも呼びます。
馬一頭を一つの鍋に:作り方と香辛料
伝統的なタンコーの主役は馬肉です。赤身だけでなく食べられる内臓はすべて使い、骨や血まで入れます。いまは客の好みに合わせて牛肉・水牛肉・豚肉で作る店も多くあります。 ベトナム語版ウィキペディアが紹介する伝統的な作り方はこうです。下ごしらえした肉に塩、タオクア(thảo quả、ブラックカルダモン)、シナモン、ディアディエン(địa điền)、炒って砕いたライムの葉などをすり込み、炭火にかけた大きく古い中華鍋で、油を使わず肉自身の脂で炒めます。そこへ水を注いで何時間も煮込み、アクをこまめにすくってスープを澄んだ甘い味に仕上げます。内臓・血・骨は後から入れ、柔らかく煮ます。 地元メディアは八角を含む十数種類の香辛料が入ると伝えています。ただし町の食堂の多くは香辛料の配合を変えていて、味がかなり変わったという指摘もあります。
市の日と祭りの日の料理
タンコーは本来、ふだんの食卓より人が集まる日の料理でした。ベトナム語版ウィキペディアは、タンコーを作る機会として祭り、森を守る誓いの儀式、村や一族の集まり、そして市の日(chợ phiên)を挙げています。 高原の市場のタンコー鍋は、数十人が食べられるほどの大きさです。鍋は火にかけたままにして、食べる人がお玉で取り分けながら食べるのが伝統的なやり方。客は平らな地面や板のテーブルを囲み、プラスチックのたらいや椀で分け合います。 付け合わせも決まっています。地元メディアによると、カイメオ(cải mèo)などの山菜と一緒に食べ、ムオンクオン産の唐辛子で作る辛いたれにつけ、トウモロコシ粉のメンメン(mèn mén)や焼いたトウモロコシのパンを添えます。そして欠かせないのがバックハーやサンルン(San Lùng)のトウモロコシ酒。
旅行者のための注文のコツ
初めての人には、市場のタンコーは簡単ではないかもしれません。地元メディアも、本場の市場のタンコーはにおいが強く苦みもあり、慣れない人には食べにくいことがあると率直に書いています。 不安なら方法がいくつかあります。一つは、まずサパの町の食堂で味わうこと。町のタンコーはキン族の好みに合わせて香辛料を変えていることが多く、市場より穏やかな味です。もう一つは、馬肉の代わりに牛肉(thắng cố bò)や水牛肉(thắng cố trâu)のものがあるか聞くこと。いまは客の好みに合わせて、こうした肉で作る店も多くあります。 本場の雰囲気を味わうなら市の日に合わせて行くのがおすすめです。バックハーの市は日曜市として知られているので、日程を事前に確認しましょう。トウモロコシ酒は度数が高いので、山道の移動がある日は少しだけにしておくと安心です。