
豚の炭火焼きをのせたサイゴン式コムタム · 写真: Phương Huy / CC0 (Wikimedia Commons)
コムタム:砕け米のひと皿がサイゴンの顔になるまで
「ハノイの人がフォーを食べるように、サイゴンの人はコムタムを食べる」と言われます。かつて家畜のえさだった砕け米が炭火焼きの豚肉と出会い、ホーチミンの代表的なご飯になった物語と、ひと皿の楽しみ方をまとめました。
名前の意味から
コムタム(Cơm tấm)の「コム」は炊いたご飯、「タム」は精米の途中で割れた米粒のことです。つまり「砕け米ご飯」。この割れた米はかつて質の劣る米とされて安く、豚や鶏のえさにもなっていました。 ところが砕け米は普通の米と食感が違います。粒が小さくぱらりとしながら味をよく吸い、甘じょっぱいタレをかけると粒の間までしみ込みます。今ではわざわざ砕け米を買ってコムタムを炊く店がほとんどで、蒸すときにパンダンの葉を入れてほのかな香りを付ける店もあると現地紙は伝えています。ベトナム全土で食べられますが、本場は南部、とりわけホーチミン(旧サイゴン)とされます。
メコンの農民の食事からサイゴンのひと皿へ
コムタムの出発点は、貧しい農民たちの食卓だったと言われています。不作の年、売れるだけの完全な米が足りないと、農民は売り物にならない砕け米を炊いて食べました。サイゴンのお年寄りも、コムタムを「もとは貧しい農民のご飯」と記憶していると現地紙は伝えています。 変化は都会で起きました。南部文化の研究者でもある作家ソンナム(Sơn Nam)によれば、20世紀前半に都市化が進むなか、サイゴンの料理人たちが外国人客の好みに合わせ、このご飯に炭火で焼いた豚スペアリブ、豚皮の細切り、卵の蒸し物をのせるようになりました。器も碗から皿に変わり、スプーンとフォークで食べる洋風のスタイルが定着。今もホーチミンのコムタム店で箸よりフォークが先に置かれているのは、その名残です。
ひと皿を構成するもの
最も代表的なのは「コムタム・スン・ビー・チャー(Cơm tấm sườn bì chả)」です。主役のスン(sườn)は、タレに漬けた豚のスペアリブや肩ロースを炭火で焼いたもので、漬けダレの秘伝は店ごとに違います。ビー(bì)はゆでた豚皮と赤身を細切りにし、炒った米粉で和えたもので、香ばしくもちもち。チャー(chả)はひき肉と卵を混ぜて蒸した卵の蒸し物で、目玉焼きに替えてくれる店も多くあります。 さらに油でさっと火を通した青ねぎ(モーハイン)をご飯にかけ、きゅうりやトマト、にんじんと大根の甘酢漬けを添えます。最後に欠かせないのが、甘酸っぱくしょっぱく合わせたヌックマムのタレ(ヌックマム・ファー)。最近は焼き肉巻きやチャーシューを加えたものも多く、メニューから好きな組み合わせを選ぶのが一般的です。
地元流の食べ方
コムタムは箸よりもスプーンとフォークで食べることが多い料理です。フォークでスペアリブを押さえ、スプーンのふちで一口大に切り、ご飯とビー、チャーを少しずつ一緒にすくって食べます。 大切なのはタレの使い方。小鉢で別に出てくるヌックマムのタレは、肉を付けるためというより、必要な分だけスプーンでご飯にかけ、米粒にしみ込ませるためのものです。最初に全部かけるより、少しずつ足して味を調えるのがおすすめ。辛いのが好きなら、テーブルの生唐辛子やチリソースを加えましょう。 かつては朝だけのご飯でしたが、今は朝昼晩はもちろん夜遅くまで売られています。道端の小さな屋台から冷房の効いた店まで形もさまざまで、サイゴンの人にとっては時間も場所も選ばない日常のご飯です。
注文のコツとどこで食べるか
注文は「何をのせるか」を伝える方式です。スペアリブだけなら「コム・スン(cơm sườn)」、三つ全部なら「スン・ビー・チャー」で通じます。目玉焼きを足すなら「チュン・オップラー(trứng ốp la)」、スペアリブをもう一枚なら「テム・スン(thêm sườn)」のように「テム(追加)」を付けます。写真付きメニューの店も多いので、指さしでも十分です。 値段は店の規模でかなり違います。2020年の報道では、冷房のある小ぎれいな店でひと皿3万5千〜6万ドン程度、道端の店はそれより安めでした。その後物価が上がっているので目安としてください。 店探しは簡単です。ホーチミン市内ならどの地区でも、市場の周りや大通り沿いで炭火の煙と肉を焼く香りが漂っていれば、たいていコムタムの店。地元客の多い店を選べば失敗が少ないでしょう。