
バゲットと一緒に出されたファーラウ · 写真: Policyandinternet / CC BY-SA 4.0 (Wikimedia Commons)
ファーラウ:潮州人の煮込みがサイゴンの下校おやつになるまで
ココナッツの香る濃いスープで牛や豚のもつを煮込み、バゲットを浸して食べるファーラウは、ホーチミンの人々にとって思い出の屋台おやつです。中国・潮州人の煮込み料理がサイゴン流に変わった経緯と食べ方をまとめました。
誰もが覚えている午後のおやつ
ファーラウ(Phá lấu)は、牛や豚のもつを香辛料のスープで長時間煮込んだ料理です。ベトナム最大の日刊紙VnExpressは「ファーラウがいつ現れたのか誰も覚えていない」としながらも、何世代もの学生や会社員とともにあったサイゴンの屋台料理だと紹介しています。 ファーラウが一番求められるのは夕方前。昼と夜の間に小腹がすいたとき、雨の午後に温かいスープが恋しいときに食べるおやつなのです。サイゴンで学生時代を過ごした人は、校門前の歩道にしゃがんでファーラウ入りの麺を食べた思い出をよく語ります。食事というより買い食いに近く、だからこそ愛着のわく味です。
ルーツは潮州人の「滷(ルー)」
ファーラウは、ベトナム南部に定住した中国・潮州出身の移民、ベトナム語で「ティエウ(Tiều)」と呼ばれる人々の料理から来たと言われています。VnExpressの英語版も、ファーラウを中国から伝わったもつ煮込みとして紹介しています。ホーチミンのカルチャーメディアSaigoneerによると、「ラウ(lấu)」は潮州料理で醤油と香辛料を使って煮込む「滷(ルー)」の技法を指し、潮州式の煮込みは五香粉や醤油などで味付けします。 中国ではアヒルなどの肉をこうして煮込むことが多かったそうです。ただ、この煮込みがいつ、どのような経路でサイゴンに根付いたのかははっきりした記録がありません。VnExpressが「いつ現れたのか誰も覚えていない」と書いたように、ファーラウは始まりよりも、サイゴンの街角で長く愛されてきた時間で知られる料理です。
サイゴン流になった点:もつとココナッツ
サイゴンのファーラウが中国の煮込みと最も違うのは、材料とスープです。Saigoneerによれば、サイゴンの屋台では安い牛のもつが主役として定着し、豚もつを使うファーラウもよく見られます。一杯に牛の胃や腸などいろいろな部位が混ざって出てくるのも、こうした事情からです。 もう一つはココナッツ。南部料理ではスープにココナッツジュースやココナッツミルクを加えてこくを出すことが多く、ファーラウのスープの濃厚でほんのり甘い味もここから来ています。VnExpressの英語版も、ココナッツミルクでスープを濃厚にしたホーチミンのファーラウを紹介しています。南部で共に暮らしてきたさまざまな人々の好みが混ざり合って今の味になった、という見方もあり、今では黒豆みそ(tương đen)の風味を強めたファーラウもあります。
地元流の食べ方:パンか麺か
ファーラウの食べ方は大きく二つ。一つは、器のもつとスープにバゲット(バインミー)をちぎって浸して食べる方法、もう一つはスープに黄色い卵麺を入れた「ミー・ファーラウ(mì phá lấu)」で食事のように食べる方法です。初めてならパンと一緒がおすすめ。ココナッツの香りがしみた濃いスープをパンがたっぷり吸い込み、この料理が愛される理由がすぐに分かります。 添える調味料も大切です。もつは塩・こしょう・ライム果汁を混ぜた「ムオイ・ティエウ・チャン(muối tiêu chanh)」に付けて食べ、唐辛子を浮かべたタレを足すことも。塩漬けのチンゲン菜やきゅうりを添える店もあり、こってりした味をさっぱりさせてくれます。
どこで、どう注文するか
ファーラウはほとんどが歩道の小さな屋台や屋台車で売られています。大鍋いっぱいにスープが煮立っていて、注文するともつを一口大に切り、スープと一緒に器に盛ってくれます。学校の前や住宅街の路地、市場の周りで午後から開く店が多く、夕方前に街を歩いていれば自然と出会えます。 注文では、パンと一緒に食べるか(ファーラウ・バインミー)、麺を入れるか(ミー・ファーラウ)を伝えればOK。一杯に牛の胃や腸など複数の部位が混ざって出てくるのが一般的で、店によっては部位を選べます。 もつ料理が初めてなら小さめの器で試し、客が多くて鍋がすぐ空になる店を選ぶといいでしょう。ハノイにも店ができましたが、ココナッツスープの「サイゴンの味」はやはりホーチミンで味わいたいものです。