歴史
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ご飯に添えた鶏肉のアドボ · 写真: Obsidian Soul / CC BY-SA 3.0 (Wikimedia Commons)

ご飯に添えた鶏肉のアドボ · 写真: Obsidian Soul / CC BY-SA 3.0 (Wikimedia Commons)

フィリピン

アドボの話:酢と醤油で煮込むフィリピンの国民食

フィリピンの人に「いちばんフィリピンらしい料理は?」と聞くと、多くの人がアドボを挙げます。名前はスペイン語ですが、肉を酢で煮込む調理法はそれ以前からあったという説が有力です。由来と基本の材料、家ごとに違うアレンジ、旅先での味わい方をまとめました。

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「非公式の国民食」と呼ばれる理由

アドボ(Adobo)は鶏肉や豚肉を酢・醤油・ニンニク・粒コショウ・ローリエで煮込んだ料理で、フィリピンの「非公式の国民食」としてよく紹介されます。法律で決められたわけではありませんが、家庭の食卓、町の食堂、お弁当、祝い事のごちそうまで、あらゆる場面に登場するからです。 味の中心は、酢の酸味と醤油の塩気がつくるバランス。肉を酢入りの調味液に漬けるか、そのまま煮込み、汁が煮詰まるにつれてニンニクの香りとともに濃いソースが肉に絡んでいきます。フィリピン料理は甘味・酸味・塩味の調和を大切にすると言われますが、アドボはそのうち酸味と塩味がもっともはっきり表れる一皿。だからこそ白いご飯と一緒に食べて初めて完成する、と言われています。

名前はスペイン語、調理法はそれより前から

アドボという言葉は、「漬け込む」を意味するスペイン語のアドバール(adobar)に由来します。記録に初めて登場するのは、1613年にスペインのフランシスコ会宣教師ペドロ・デ・サン・ブエナベントゥラが編んだタガログ語辞典で、そこに「原住民のアドボ(adobo de los naturales)」という表現が見られます。 この言い回しから、多くの研究者はスペイン人が来る前から肉を酢で煮込む現地料理があり、そこにスペイン語の名前が付けられたと考えています。スペイン人は酢を使う別の料理にもこの言葉を当てていたため、もともと現地で何と呼ばれていたのかはわかっていません。一方、フィリピンの食文化研究者ドリーン・フェルナンデスはメキシコのアドボの影響の可能性にも触れつつ、両者はかなり違う料理だと述べています。

酢が守ってくれた熱帯の保存食

高温多湿の気候で食べ物を長く保つのは簡単ではありません。スペイン以前のフィリピンでは酢と塩で食べ物を保存していたとされ、アドボはその知恵をよく表す料理です。酢が細菌の繁殖を抑えるため、アドボはほかの肉料理より比較的日持ちします。 そのため冷蔵庫のない山歩きや長旅に持っていくことも多いそうです。酢はココナッツ酢やサトウキビ酢がよく使われ、醤油はもともと塩が担っていた役割を引き継いだものと説明されます。ローリエも昔はニッケイ属(Cinnamomum)の木の葉を使っていましたが、今は一般的な月桂樹の葉が主流です。

家ごとに違うアドボ

アドボには決まったひとつのレシピがありません。同じ鶏肉のアドボでも、醤油をたっぷり入れて濃い茶色に煮込む家もあれば、酢を前に出して酸味を効かせる家もあります。ジャガイモやゆで卵を一緒に入れることもあります。 名前の付いたアレンジも豊富です。醤油の代わりに塩だけを使う白いアドボはアドボン・プティ(adobong puti)、バタンガスやラグナ地方にはターメリックで黄色く仕上げるアドボン・ディラウ(adobong dilaw)があります。ビコール地方やサンボアンガではココナッツミルク入りのアドボ・サ・ガタ(adobo sa gata)がよく食べられ、イカを墨ごと煮込むアドボン・プシット(adobong pusit)のような海鮮版もあります。旅先のメニューで「アドボン○○」を見かけたら、後ろの言葉が主な材料や作り方だと思えばOKです。

旅先でアドボを味わう、そして「標準化」騒動

アドボはフィリピンの大衆食堂カリンデリアで最もよく見かけるおかずのひとつなので、探さなくても簡単に出会えます。並んだ鍋から指さして選び、ご飯を添えれば一食の完成。ソースをご飯にかけて混ぜながら食べる人が多いので、ソースも多めにと頼んでみましょう。 それほど愛されている料理だけに、騒動になったこともあります。2021年、フィリピン貿易産業省傘下の標準局がアドボなど代表的な料理の標準をつくると発表すると、家ごとに味の違う料理をなぜひとつに決めるのかという批判が起きました。当局は義務ではなく、海外にフィリピン料理を紹介するための目安にすぎないと説明しています。正解がひとつではないこと自体が、いかにもアドボらしい結論と言えそうです。

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