
紫ヤム(ウビ)の芋 · 写真: Obsidian Soul / CC BY-SA 3.0 (Wikimedia Commons)
ボホールのウビ(Ubi):飢えを乗り越えた紫ヤム、「キナンパイ」とウビ祭り
フィリピンのデザートを紫に染めるウベ。ボホールでは「ウビ」と書き、島の誇りとしています。最高品種とされるキナンパイ、飢えの時代を支えたという話、落としたらキスをするという習わし、そしてウビ祭りをまとめました。
ウベとウビ:同じ紫のヤム
フィリピンのデザートを紫に染める「ウベ(ube)」は、ヤマノイモ科の紫ヤム(学名ディオスコレア・アラタ)です。ボホールではこれを「ウビ(ubi)」と書きます。フィリピンの新聞のコラムは、ルソンでいうウベをボホール流に表記したのがウビだと説明しています。 よく紫芋(サツマイモ)やタロイモと混同されますが、別の作物です。百科事典によれば、紫ヤムはサツマイモよりしっとりした食感で、紫色のもとになるアントシアニンもより多く含みます。皮はごつごつした茶色ですが、中身は品種によって濃い紫から薄紫、白に近いものまでさまざま。ボホールは良質なウビの品種がとれる土地として、フィリピン国内で名高い場所です。
「ヤムの女王」キナンパイ
ボホールのウビの中で最もおいしい品種とされるのが「キナンパイ(kinampay)」です。ボホール州政府の農業部局が伝える祭りのニュースでも、数ある品種の中でとくにキナンパイを展示の主役として紹介しており、一部の資料はキナンパイを「フィリピンのヤムの女王」と呼びます。スローフード財団の「味の箱舟」は、ボホール南西のパングラオ島と東部のギンドゥルマンを主な産地に挙げ、西ビサヤのアンティーケ州やネグロス・オクシデンタル州にもあると記しています。 キナンパイは香りと色がよく、口当たりがなめらかで、ジャムやデザート用として高く評価されています。フィリピンの新聞のコラムによれば、ボホールが最高の品種を育てるという評判のおかげで、ほかの地方の有名なウベジャムにもボホール産のウビを原料にしているものがあるそうです。ボホールの人々にとって、ウビは島の「一番の作物」です。
飢えをしのがせた作物、落としたらキス
ボホールでウビが特別なのには理由があります。フィリピンの新聞のコラムによると、海賊の襲撃、飢饉、外国の侵略といった苦しい時代にボホールの人々を食べさせたのがこの紫ヤムで、第二次世界大戦のときにも飢えから救ってくれたといいます。そのためウビは「救いの作物」とも呼ばれます。 こうした感謝の気持ちは習わしとしても残っています。同じコラムは、ウビをうっかり地面に落としたら拾うときにキスをしなければならず、そうしないとヤムが腐ったり熟しすぎたりする、という話を地元のガイドから聞いたと伝えています。筆者は、ボホールの人々がウビをほとんど神聖なものとして扱っていると書いています。
収穫期のウビ祭り
ボホールにはウビのためだけの祭りがあります。ボホール州政府の農業部局が主催する「ウビ祭り」は、ウビ農家をたたえる催しで、州都タグビラランで開かれます。2017年が第17回、2023年1月が第22回でした。長く1月に開かれてきましたが、12月が収穫期でクリスマスの需要も大きいという農家の声を受けて、州議会が条例で12月に移しました。そのため2023年は1月と12月の2回開かれ、2024年は12月中旬にリサール広場で開かれました。会場はリサール広場や農業振興センターなど、年によって変わってきました。 祭りでは、ウビを最も多く積み上げて展示するコンテスト、最高の収穫物を選ぶ競技、ウビの早食い、ウビの歌や詩のコンテスト、優秀農家の表彰などが行われます。ホテルやレストランがウビを使ったメニューで腕を競ったこともあります。正確な日程は年ごとに違うので、ボホール州政府の告知を確認してください。
旅のヒント:ボホールでウビを味わう方法
ボホールではウビがジャム、アイスクリーム、ハロハロ、ドーナツ、ケーキ、米の蒸しパン「プト」、キャンディーなど、さまざまな姿で登場します。一番の基本は、ゆでてつぶしたウビを砂糖と牛乳で煮詰めたジャム「ウベ・ハラヤ」で、土産物店で瓶詰めが売られています。ウベ入りのカラマイもあるので、カラマイと食べ比べてみてください。 生のヤムを買いたいなら、収穫期で祭りも開かれる12月ごろがよいでしょう。ただし土のついた生の芋は国によって持ち込みが制限されることがあるので、お土産にはジャムや加工品を選ぶのが安心です。濃い紫色がウビの証のように思われがちですが、着色料を加えた製品もあるので、原材料表示を確認するとよいでしょう。