
熊本の馬刺し · 写真: Rick888chen / CC BY-SA 4.0 (Wikimedia Commons)
馬刺し入門:熊本が日本一の馬肉どころになった話と部位別の食べ方
熊本に行けば必ず耳にする馬刺し。なぜ熊本で馬肉を生で食べるようになったのか、赤身・霜降り・コウネの違い、生姜やニンニクを添える地元流の食べ方と注文のコツをまとめました。
なぜ熊本が馬肉の本場なのか
馬刺しは馬肉を薄く切って生で食べる料理です。長野、福島の会津、青森などでも食べられていますが、生産量では熊本県が群を抜いて全国1位。日本語版ウィキペディアに載る統計では、2014年に熊本県で5,999頭、枝肉約2,396トンが出荷され、全国の馬肉の4割前後を占めるとされています。2015年に約45%とする地元紙の報道もあり、数字は資料によって少しずつ異なります。 ただし、熊本生まれの馬だけでこの量をまかなっているわけではありません。国内で流通する馬刺し用の馬肉の多くは輸入肉か、生きた馬を輸入して国内で肥育したものです。熊本は馬を受け入れて育て、加工する中心地だと考えると正確です。
加藤清正の伝説:400年前の通説
熊本で馬肉を食べるようになったきっかけとして最も広く知られるのは、熊本城を築いた加藤清正(1562〜1611)にまつわる話です。1590年代、豊臣秀吉による朝鮮出兵(文禄・慶長の役)の際に食料が尽き、馬肉を食べてしのいだことが帰国後に熊本へ広まった、というものです。 国土交通省の観光案内文や農林水産省九州農政局の資料もこの話を紹介していますが、農政局の資料はあくまで「通説」とし、馬刺しがいつから食べられていたかは定かではないと書き添えています。史料に裏付けられた事実というより、地域の言い伝えとして受け取るのがよいでしょう。馬肉は桜肉とも呼ばれ、赤い肉が空気に触れると桜色になるからだという説明があります。
部位を知ればもっとおいしい:赤身・霜降り・コウネ
馬刺しは部位によって味も食感もかなり違います。基本は赤身で、脂が少なくあっさりしていて、噛むほどに甘みが出ます。霜降りは脂がまんべんなく入った部位で、肩からバラにかけての肉をこう呼ぶことが多く、口の中でとろけるような柔らかさが特徴です。 熊本らしい部位といえばコウネ。馬のたてがみの下、首筋につく真っ白な脂肪で、馬肉にしかない部位と紹介されます。コリッとした歯ごたえとコクがあり、赤身と一緒に食べる人もいます。ほかにも肩からバラにかけて肉と脂が三層に重なるふたえご、レバー、タンを刺身で出す店もあります。初めてなら、いろいろな部位が少しずつのった盛り合わせを頼むと違いを一度に比べられます。
地元流の食べ方と安全の話
熊本では、おろし生姜やおろしニンニク、刻みネギを添えて醤油につけて食べるのが一般的です。九州の醤油は甘みのあるものが多く、初めての人でも馬肉の味がまろやかに感じられるという声が多く聞かれます。スライス玉ねぎと一緒に出す店もあります。国土交通省の観光案内文によると、馬肉は火を通すと硬くなりやすいため、熊本で馬肉ステーキを頼むと標準でレアで出てくるそうです。 生肉なので不安に思うかもしれませんが、日本では生食用の馬肉は、生食用の衛生基準を満たした食肉処理場で処理されたものしか販売できません。また馬肉に寄生することがある寄生虫(住肉胞子虫)をなくすため、マイナス20度で48時間以上などの冷凍基準も定められています。飲食店やきちんとした販売店で食べるなら、大きな心配はいりません。
どこで、どう注文する?
馬刺しは、熊本市中心部の下通・上通アーケード周辺の居酒屋、熊本駅周辺の飲食店、阿蘇地域の国道沿いの食事処など、県内のあちこちで気軽に味わえます。メニューには「馬刺し」とあり、部位ごとに頼める店と盛り合わせだけの店があります。生産量が多くない肉なので牛刺しより値が張る傾向があり、値段を確かめて注文しましょう。 熊本では、馬刺しを辛子蓮根、いきなり団子と並ぶ熊本三大名物に挙げることもあります。馬肉コロッケやメンチカツ、馬刺しの握りなど、火を通したりアレンジしたりしたメニューもあるので、生肉が苦手な人でも試せます。土産物店や空港では冷凍パックの馬刺しも売られていますが、肉類は多くの国で持ち込みが制限されているため、現地で味わうのがおすすめです。