
熊本の太平燕 · 写真: woinary / CC BY-SA 2.0 (Wikimedia Commons)
太平燕(タイピーエン):中国・福州の祝い料理が熊本の給食メニューになるまで
ラーメンのようで、麺の代わりに春雨、上には揚げ卵。熊本の人なら給食で食べて育った太平燕は、中国・福州から伝わった料理です。名前の意味、日本で変わった点、注文のコツをまとめました。
ラーメンに似ているけど麺は春雨
太平燕(タイピーエン)は、熊本の中華料理店ならたいてい置いているスープ料理です。大きな丼に盛られた姿はちゃんぽんやタンメンに似ていますが、麺の代わりに緑豆などで作る春雨を使うのが最大の違い。上にはエビ、イカ、豚肉、白菜、タケノコ、キクラゲなどの魚介と野菜を炒めてたっぷりのせ、最後にゆでてから揚げた卵をのせます。 この卵は、表面のしわが虎の皮のように見えることから虎皮蛋(フーピータン)と呼ばれます。スープは店ごとに異なり、醤油、塩、豚骨などがあり、ゆで卵やうずらの卵を使う店もあります。春雨と野菜が中心なので、ラーメンより軽く食べられることを売りにする店も多くあります。
故郷は中国・福州:名前に込められた太平の願い
太平燕のルーツは中国福建省福州の郷土料理です。日本語版ウィキペディアによると、福州の太平燕は豚肉とサツマイモでんぷんで作る薄い皮で包んだワンタンのようなものと、アヒルの卵が入ったスープです。福州の言葉でアヒルの卵を指す言葉が「乱を鎮める」という言葉と音が似ていることから太平を願う料理となり、太平宴(太平の宴)という名前とともに婚礼などの祝いの席に出されたといいます。 日本では「宴」の代わりに「燕」の字を書きますが、中国語では二つの字の発音が同じです。字面からツバメの巣の料理と勘違いしがちですが、ツバメの巣は入っていません。中国の料理と熊本の太平燕は見た目がかなり違い、同じ名前の別の料理と考えてもいいほどです。
明治の華僑が伝え、日本流に変わった
太平燕は、明治時代(1868〜1912)に来日した華僑が伝えたとされています。当時の日本ではアヒルの卵が手に入りにくかったため鶏卵を揚げた虎皮蛋に替え、手間のかかるワンタンの皮の代わりに春雨を使ったことで、今のような麺料理に近い形になったといいます。 熊本でいつ初めて出されたかははっきりしません。1933年ごろ市内の百貨店に開業した中華料理店が元祖としてよく挙げられますが、同じ1933〜34年ごろに開業したほかの中華料理店も元祖の候補とされます。この料理を調べた作家の中には、当時の中華料理店同士が盛んに情報を交換していたため一軒に絞ることはできないとする人もいます。元祖争いよりも、1930年代の熊本の華僑社会がともに育てた料理と見るほうが自然でしょう。
給食にも出る熊本の日常食
太平燕は主に熊本県中部で親しまれている料理で、熊本市をはじめ宇土、宇城、南関などの学校給食にも登場するそうです。そのため熊本出身の人にとって太平燕は特別な外食というより、子どもの頃から食べてきたなじみの味。お隣・長崎のちゃんぽんのように、地元の暮らしに根づいた中華料理といえます。 2000年代に入ると、低カロリーの春雨と野菜をたっぷり使う点が知られ、ヘルシーな麺料理として紹介されることが増えました。2005年には複数の食品メーカーがカップ太平燕を発売し、2008年には首都圏の中華チェーンがメニューに加えて関東でも名前が知られるようになりました。それでも熊本の外ではまだなじみの薄い料理で、現地でぜひ食べたい熊本名物に数えられています。
どこで食べ、どう注文する?
太平燕は、熊本市中心部の下通・上通アーケード周辺や熊本駅一帯の中華料理店、大衆食堂で手軽に見つかります。メニューには「太平燕」とあり、店によってはスープの味を選べたり、小さめの器が用意されていたりします。一人前の量が多めなので、ほかの料理と一緒に頼むなら小盛りにするか、シェアするのも手です。 春雨はスープをすぐ吸ってのびやすいので、出てきたらすぐに食べるのがおすすめ。揚げ卵は表面がカリッとしているうちに食べても、スープを吸わせてから食べても、お好みでどうぞ。小麦の麺を避けたい人にもよい選択ですが、春雨の原料やスープによって成分が違うので、アレルギーがある人は店に確認しましょう。