
地獄蒸しのさつまいも・卵・とうもろこし · 写真: 極地狐 / CC BY-SA 2.0 (Wikimedia Commons)
地獄蒸し:100度の温泉蒸気で蒸す、別府・鉄輪の台所
別府・鉄輪温泉では、地面から噴き出す温泉の蒸気で卵やさつまいも、魚介を蒸して食べます。江戸時代から続く地獄蒸しの仕組みと歴史、自分で蒸すときのコツと注意点をまとめました。
別府の「地獄」とは
別府は源泉数・湧出量ともに日本最大級の温泉地です。なかでも市北部の鉄輪や明礬は泉温がとても高く、地中から100度近い蒸気が絶えず噴き出しています。煮えたぎる湯や蒸気が噴き出す場所は昔から「地獄」と呼ばれ、別府名物の観光コース「地獄めぐり」の名もここから来ています。 地獄蒸しは、この蒸気を使って食材を蒸す調理法です。噴気口の上に窯のような蒸し器を据えたものを、地元では「地獄釜」と呼びます。鉄輪の町を歩くと、民家や旅館の庭、道ばたのあちこちから白い湯けむりが上がっていますが、その多くがこうした地獄釜や温泉設備から出ているものです。
江戸時代から続く蒸気の料理
鉄輪や明礬で、沸騰するような温泉の蒸気で食べ物を蒸す習慣は江戸時代からあったとされます。噴気の出る場所に窯のような設備を作ったのが、今の地獄釜です。 1964年刊の郷土記録『別府今昔』には、明治のころ鉄輪一帯は「地獄原」と呼ばれ、少し掘れば蒸気が噴き出し、子どもたちが竹を地面に差して噴気口を作り、豆の枝をゆでたり、さつまいもを蒸したりしたという話が残っています。 鉄輪の歴史はさらに古く、鎌倉時代の1276年、遊行僧の一遍上人がこの地を訪れて土地を整え、蒸気を使った蒸し湯を開いたと伝えられています。蒸気を暮らしに生かす知恵は、それほど長く受け継がれてきたのです。
味付けがほとんどいらない理由
地獄蒸しが普通の蒸し料理と違うのは、蒸気そのものです。鉄輪や明礬の蒸気は100度近い高温のため短時間で火が通り、素材のうま味が逃げにくいといわれます。さらに蒸気には温泉の塩分が含まれていて、塩を振らなくてもほんのり味がつくとされています。 そのため地獄蒸しは、味付けより素材の味を楽しむ料理です。さつまいもやとうもろこしは甘みが増し、エビや貝などの魚介はほどよい塩気に仕上がります。 蒸気の温度は資料によって約100度、98度などと少しずつ違って書かれています。いずれにしても、触れればすぐやけどする温度であることに変わりはありません。
何を蒸す?どう体験する?
地獄蒸しに決まったメニューはありません。米、野菜、肉、魚介など、何でもざるに入れて蒸気にかければ出来上がりです。観光地の売店では地獄釜で蒸した温泉卵やプリン、じゃがいも、とうもろこし、豚まんなどを売っていて、手軽に味わえます。 自分で蒸してみたいなら、鉄輪の温泉街にある地獄蒸しの体験施設を利用しましょう。施設で売っている食材や持ち込んだ食材をざるに入れて釜に入れるのが一般的で、釜は時間単位で借ります。 食材によって火の通る時間が違うので、卵やさつまいものように時間のかかるものから入れ、エビや貝のようにすぐ火が通るものは後から入れるのがコツです。ふたを開けると熱い蒸気が一気に上がるので顔を近づけず、備え付けの手袋を必ず使ってください。
鉄輪の湯治文化と楽しみ方のコツ
地獄蒸しが単なる観光体験にとどまらず暮らしの料理として残った背景には、鉄輪の湯治文化があります。農閑期に温泉に長く滞在して体を休める湯治客は、安く泊まって自炊できる宿を求め、食事なしで部屋を貸す「貸間旅館」が別府に根づきました。 今も鉄輪には、客室や共用スペースに地獄釜を備えた自炊宿が残っていて、買い出しをして夕食を自分で蒸すことができます。 もう一つのコツ。鉄輪一帯の湯けむりは、冬の朝など気温が低いときに特にはっきり見えます。この湯けむりの景観は文化的景観にも選ばれているとされるので、地獄蒸しを食べたあとは高台の展望スポットから、湯けむりの立つ町を見下ろすコースがおすすめです。